元令嬢は俺様御曹司に牙を剥く 〜最悪な運命の相手に執着されていたようです〜
 ホテルの最上階、スイートルーム。着くまでももちろんドキドキしていたのだけれど、部屋に入った瞬間に別の意味で心臓が破裂しそうになった。部屋に足を踏み入れた瞬間、急に飛鳥に抱きしめられたのだ。

「ちょ、ちょっと飛鳥?」

 背の高い飛鳥の腕の中。私の視界は全部飛鳥の胸元だ。頭までがっちり抑えられ身動きが取れない。けれど、その胸の音が早いことに気が付いて、飛鳥も同じで良かったと安心する。おずおずと彼の背中に手を伸ばした。

「やばい、もう我慢できねえ」

 飛鳥はひょいと私を抱き上げると、そのまま真っ直ぐにベッドルームまで進む。私をベッドの縁に座らせると、あっという間に私を押し倒した。

 両腕をがっちりとベッドに縫い付けられ、私は動けない。それ以上に、飛鳥の熱を孕んだ瞳から、目が離せなくなった。

 見つめ合い、三秒。どうしようもなく目の奥が熱くなり、なぜか涙が零れそうになる。

「飛鳥?」

 おかしいほどに高鳴る鼓動に縛られながら、何とか口だけ動かした。けれど、しっかりと紡いだはずの彼の名前はとても小さな声になってしまった。

 急に目の前が暗くなる。途端に、何か温かいものが私の唇に触れた。

 ――キス、してる?

 そう思ったのも束の間、何度も何度も唇に同じ熱を落とされ、気持ちが高揚してゆく。

「んん、ふ……」

 思わず声を漏らすと、それすら絡めとるように飛鳥は私の唇をついばんだ。彼の吐息からは、芳醇なワインの香りがする。そのせいなのか、目の前がくらくらする。

 何度も何度もついばんでは離れていく飛鳥の唇がもどかしい。そう思っていると、飛鳥の舌が私の中に侵入してくる。

 ああ、もうだめ、私――。

 まるで媚薬に侵されたみたいに、彼の舌に自分のそれを絡めた。唾液が全部絡まり合い、快楽が胸を突き抜ける。

「飛鳥、もっと……」

 息継ぎのために開いた口で告げると、飛鳥はぴたりと動きを止めた。
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