元令嬢は俺様御曹司に牙を剥く 〜最悪な運命の相手に執着されていたようです〜
 冬梧さんに連れられやってきたのは、懐かしい料亭だった。その昔、彼を婚約者だと知らされた場所だ。

 季節の料理を運び終えた女将さんが出ていくと、私はさっそく切り出した。

「騙されてるって、どういうこと?」
「まあまあ、そんなに焦らないでよ。まずはお酒でも飲んでさ、気楽に――」
「ふざけないで!」

 思わず大声を出すと、冬梧さんはふふっと笑った。

「そうか、色春はそんなに飛鳥社長が好きなのか。まさか、これほどとはね」
「何が言いたいの!?」
「だってさ、おかしいと思わない? 会社の買収の条件に、いくら面識があったとはいえ、一社員との婚約を入れるなんて」
「何でそれを知ってるの!?」
「さあ、どうしてだろうね」

 冬梧さんは笑みを崩さずに淡々という。

「色春のご両親の会社は既に久恩山グループが買収した。なのに、飛鳥社長は買収の条件に入れてまで、色春と婚約した。そこまでして、色春が欲しい理由って何だと思う?」
「それは、私のことが好きだから――」
「恋は盲目ってやつかな」
「な……っ!」

 悔しい。ムカつく。けれど、それ以上言い返せなかった。

 飛鳥は私に好きだと言ってくれる。けれど、仕事ばかりで一緒にいる時間は少ないし、部屋も別々だし、あの濃厚なキスだって、酔っていたがゆえの行為なのだ。
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