元令嬢は俺様御曹司に牙を剥く 〜最悪な運命の相手に執着されていたようです〜
 ◇

 結局、一年後に母方の伯母に養子に迎えられ、久恩山家からはおさらばした。

 それからは、ごく普通の高校生活を送って、奨学金と伯母に借りたお金で大学に通い、そこで学んだ栄養学を武器に新進気鋭の製菓会社に就職して、奨学金と伯母からの借金を返しつつ貧乏ながらも充実した社会人生活を送ってきた。と、いうのに!

 モニターの向こうで、飛鳥が自信たっぷりな笑みでスピーチをしている。それだけで気分が悪くなる。胃がムカムカとしたけれど、でもまあ一社員と社長なんてそんな都合よく出会わないでしょ、と自分に言い聞かせた。

 のだが。

「――最後になりましたが、私、久恩山飛鳥は、企画開発局の玖珂色春と婚約をしたことを発表いたします。温かく見守っていただけることを――」

 ――――――はぁ!?

 従業員たちの視線が、一斉にこちらを向いた。

 いやいや、私が一番ビックリしてるから!

「この後、企画開発局の玖珂色春はすぐに社長室まで来るように。以上」

 不敵な笑みを浮かべた飛鳥がそう言うと、モニターは真っ黒になった。

「玖珂さん、どういうこと!?」
「え、玖珂さんって何か久恩山グループと関係があったり!?」

 私は会社の誰にも、自分が旧玖珂製薬の元令嬢であることは話していない。

「あはは、何でしょうねー」

 私はフロアーから逃げるように社長室へ向かった。

 どういうこと!? 私が一番知りたいよ!
< 5 / 53 >

この作品をシェア

pagetop