元令嬢は俺様御曹司に牙を剥く 〜最悪な運命の相手に執着されていたようです〜
 残ったのは、その場に立ち竦んだ私と社長椅子へ堂々と座る飛鳥だけだ。

「一体どういうことなの!?」

 飛鳥は社長机に肘をつき、組んだ手の上に顎を乗せ、ニコリと微笑んだ。何かを含んでいるようなその微笑みに、胸がぞわぞわした。

「TSF買収の条件だったんだよ。色春との婚約」
「はぁ!?」

 待って、本当に意味が分からない。

「今さら婚約って何!? 玖珂製薬はもうとっくに久恩山グループのものでしょ!?」
「玖珂製薬は関係ない」
「じゃあ何で!」

 そこまで言うと、飛鳥は立ち上がりこちらへ向かってきた。思わず後ずさるが、たった二歩で背中が壁にぶつかった。

 近い。
 飛鳥は目の前までやってくると、笑顔のまま私の顔を覗くように腰をかがめた。

「決まってんだろ、色春が好きだからだ」

 はぁ!? 好き、だとっ!?

 意味が分からないが、驚きのあまり声は出ない。代わりに、口を開けたまま飛鳥を睨む。すると飛鳥は私の顔に自身の顔を近づけた。

 目を閉じ、ゆっくりと近づいてくる飛鳥の顔。なぜか私は金縛りにあってしまったように、そこから動けない。

 嘘、飛鳥!? やめてっ!

 思わずぎゅっと目をつぶった。
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