総長様は可愛い義妹に永遠の愛を​​捧ぐ
あれ…

今一瞬…頭の中になんか流れてきたような…

「沙奈」

「あっ、久音くん!電話終わった?」

「終わった。綺麗だね。花火」

窓の外に目を向けながら隣にやってくる久音くん。

「うん!」

さっき。

ーー来年も、お兄ちゃんと見たい。

って一瞬だけ流れてきた記憶…

「ふふっ…」

「どうしたの?」

「ううんっ、なんでもない!」

きっと記憶がなくなる前の私も、久音くんのこと大好きだったんだろうな。

最近は、断片的にだけど記憶? が頭に浮かぶようになった。

今はまだ曖昧だけど、全部思い出したら久音くん喜んでくれるかな。

そんな淡い期待を胸に抱きながら、ちら、と久音くんの横顔を見つめた。

***

「お願い! ちょっだけ!」

「ダメだよ」

「えー…」

この日。

私は少し、わがままを言っていた。

晩御飯のカレーライスを食べ終わって、食器を片付けている久音くんの服を何度も引っ張る。

「ちょっとだけ……!!お願い…!」

多分これは、私が記憶を失ってから初めてしたお願いごとだった。

‪”‬お外に行きたい‪”‬

と、ひたすらお願いしていた。

ここだけの話。

少し前久音くんが家を開けている時に、外に出ようとしたことがあった。

その時はただ単に、テレビもいいのやってなかったし、退屈だったし? ちょっとの興味本位で出たい、と思っただけ。

でも、開かなかった。

どうやら久音くんが外出する時。外側から鍵を掛けているみたいで……、内側からはどうにも出来なかったのだ。
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