揺蕩ふままに
「……サトは、もうすぐ死ぬの?」
言葉の代わりに、抱きしめられた。
私がいちばん欲していたのは、こんな曖昧な行為じゃなくて。
最初から、言葉だった。
「……苦しいよ、私」
彼はもうすぐ死ぬ。私は生きる。
終わりまでの時間をめいっぱい生きているサト。幸せの絶頂で死ぬメリットは「辛いことせず幸せなまま死ねるじゃん」と、筋が通っているのかよく分からない回答をして笑っていた。
「大丈夫だよ、レイは」
人は、幸せの絶頂に死ぬことなんてできない。
その幸せがいつまで続くか分からないから、希望を抱き続けると思うのだ。
「……死ぬってこわいでしょ」
「生きるほうがこわいじゃん」
何があるか分かんないんだから────、
そう言ってサトは薄く笑った。
私はきっと死ねない。幸せなときに、自らその幸せを断つことなんて、できない。