揺蕩ふままに
私は彼の本当の名を知らない。
サト。出会った時からこの名前だったから。
サト、だけなのか。どんな漢字を書くのか。
家族構成は。高校はどこだったのか。
何にも知らない。
ただ知っていることは、まだお酒が飲める年齢じゃないってことと、『いちばん幸せなときに死にたい』が口癖だってことと、決めたことは一生曲げないってこと。
それから。
「俺、弱いからさ。レイと一緒に生きてく自信、ないんだわ」
人より少し臆病で、人知れず弱さを抱えているということ。
「来世の俺は、きっと強くなってるはずだからさ」
そしたらレイのこと迎えにいくよ、
──結局私は、来世まで彼に会えないらしい。
私が生きていくかぎりは、巡り合うことができない。