揺蕩ふままに
───────
───
「だから、私は応えられないんです。ごめんなさい」
【桐谷悟】と書かれたネームプレートに視線を落とす。
悟という響きを聞くたびに、彼が頭をよぎる。
「死んだ人に執着してるんです、ずっと。おかしいでしょ? 私、こんな人間なんです。どうしようもない人間なんですよ」
酔いがまわって、要らないことまで喋ってしまう。
彼といたときに憧れていたお酒は、飲んでみると案外たいしたものではなかった。
飲めるようになってしまった。
「その人は、天津(あまつ)さんの恋人だったんですか」
「……誰だったんでしょうね、彼。私の何だったんでしょう」
「恋人ではなかったんですか」
「そんな綺麗なものじゃなかったです、きっと」
名前をつけるとするならば、
「……運命共同体、的な?」
「……」
「冗談ですよ。そんな素敵なものじゃなかったです」
また曇った。重たい話をしすぎて、桐谷さんが時折顔を顰める。
───
「だから、私は応えられないんです。ごめんなさい」
【桐谷悟】と書かれたネームプレートに視線を落とす。
悟という響きを聞くたびに、彼が頭をよぎる。
「死んだ人に執着してるんです、ずっと。おかしいでしょ? 私、こんな人間なんです。どうしようもない人間なんですよ」
酔いがまわって、要らないことまで喋ってしまう。
彼といたときに憧れていたお酒は、飲んでみると案外たいしたものではなかった。
飲めるようになってしまった。
「その人は、天津(あまつ)さんの恋人だったんですか」
「……誰だったんでしょうね、彼。私の何だったんでしょう」
「恋人ではなかったんですか」
「そんな綺麗なものじゃなかったです、きっと」
名前をつけるとするならば、
「……運命共同体、的な?」
「……」
「冗談ですよ。そんな素敵なものじゃなかったです」
また曇った。重たい話をしすぎて、桐谷さんが時折顔を顰める。