揺蕩ふままに
「桐谷さんにとって私がどう見えてたかは知らないですけど、幻滅したでしょう。本当はこんなダメダメな人間なんです」
エリート上司、だなんて異名をもらえるほどになったのは、私自身も意味がわからない。
けれどサトの存在が、私に力を与えてくれているのは、時々感じていた。
あの夜に戻りたいと焦がれるたびに、来世へと交わした約束が思い起こされる。
そうやって、私はこの世界を生き抜いてきた。
「……僕は、そういうダメな部分も、まるごと受け止めていきたいです」
「え?」
「だって天津さんのことが好きだから」
そんなふうに、はっきりと言葉にされたのはいつぶりだろう。
思い返してみて、気づいたことがある。
サトは一度も私に好きだと言葉にしてはくれなかった。