揺蕩ふままに
「その人のことを忘れてほしいとは言いません。その人の思い出ごと、僕はあなたを受け止めたい」
「絶対後悔するよ。私とじゃ幸せになれないよ」
「僕は、幸せになりたいわけではないです」
麗香さん、と名前を呼ばれる。
結局、サトには最後まで明かせなかった名前。
彼の名前も、私は知らないままだ。
「僕は……麗香さんを、幸せにしたいんです」
「え?」
「あなたはいつも、幸せになっちゃいけない、みたいな顔してますから」
渋い顔をすると、「なんですかその顔」と笑われた。
「僕の隣で幸せに笑っててくれたら、僕も幸せです」
「ねえ、桐谷くん」
「はい」
彼は、なんと答えるだろうか。