「恋愛ごっこ」をして過去に上書きしてみませんか?
第9話 「恋愛ごっこ」で癒し合う二人
次の月の最終水曜日が待ち遠しかった。宿に着くと、紗恵が先についていて、夕食を一緒に食べようと待っていてくれた。同じテーブルに料理が配膳されている。
席に着くと紗恵がビールを注いでくれる。僕もビールを注いであげる。そして乾杯する。二人は乾杯がしたかった。紗恵の表情が明るくなっている気がする。きっと僕の表情も明るくなっていたと思う。
ママさんは僕たちが男女の関係になったことに気づいていたと思う。前回泊まった時に僕はベッドに寝た形跡を残さなかったので、それを察したのではないだろうか? でもそのことについては気のつかない振りをしてくれていたのだと思う。少しも触れてこなかった。
食事をしながらお互いの子供のことや職場のことや毎日の生活のことなどを話し合った。もう隠す必要などないし、お互いのことをもっと知りたいと思ったからだった。ママさんは給仕をしてくれながら、そばで黙ってそれを聞いていた。
食事を終えて、紗恵はお風呂をあとからにするというので、僕が先に入った。それからラウンジへ行った。紗恵はオーナーと話していた。
「元気そうだね。何か良いことでもあった?」
「ええ、山本さんにいろいろ話を聞いてもらって、気が楽になったからかもしれません。良い人を紹介してもらったと感謝しています」
「私もそう話していたところです」
「夕食も一緒に食べて楽しかったです。毎月この日が楽しみになっています。それで元気も出ています」
「お二人はいろいろ苦労されているから、そういう楽しいことがあっても良いと思います。これからもここで愚痴を言い合ったり励まし合ったりしたら良いと思います」
そこへママさん後片付けを終えて入ってきた。
「歌を歌ってないの? 私が一曲歌わせてもらうわ。リクエストある?」
「『天城越え』どうですか? ママさんの演歌が聞きたくなりました」
ママの演歌を聞くのは久しぶりだった。相変わらず上手だ。
「オーナーも演歌を歌ってくれませんか?『そんな夕子に惚れました』はどうですか?」
「二人は曲の趣味が変わってきたみたいだね。いいよ」
オーナーの演歌もまんざらではなかった。やはりいつもここで歌い込んでいるだけはある。それから二人で二曲ずつ歌った。でも僕は気もそぞろだった。この後のことで頭が一杯になっていた。それで紗恵の耳元に小声で話した。オーナー夫妻はそれを見ていたと思う。
「このあと僕の部屋で『恋愛ごっこ』しませんか?」
紗恵は頷いた。まるで待っていたかのようだった。そしてすぐに言った。
「ママさん、私はこれで、お風呂に入ります」
そう言うとラウンジを出て行った。
「じゃあ、僕もこれで引き揚げます」
僕もラウンジを出てきた。オーナー夫妻は顔を見合わせていたと思う。もうきっと分かっているから気にしなくてもよい。缶チュウハイを自販機で2本買って部屋に戻った。
待ち遠しかった。ドアをノックする音で立ち上がってドアを開けてすぐに彼女を入れる。紗恵は入ってくると僕に抱きついてきた。身体の関係ができた二人は久しぶりに逢うとすぐにこういう感じになるんだ。別れた芳江とはどうだったか思い出せない。
抱き合ってそのままベッドに倒れ込む。二人にはもうためらわせるものはなにもない。ひと月の間に貯めていた思いを一気に解き放って、ただ、ひたすらに愛し合うだけだ。
紗恵は初めて愛し合った時とは違って二度目は驚くほど積極的になっている。それに触れるところ触れるところが敏感に反応した。
目の前の紗恵に夢中になっていた。ふと別れた芳江とはどうだったかと思い出そうとしたが思い出せなかった。芳江の記憶を紗恵の記憶で上書きしている。そう思った。
◆ ◆ ◆
心地よい疲労が僕を眠りに誘う。今、紗恵はもう僕の腕の中でおとなしく抱かれている。身体を動かすと抱きついてきた。
「このまま眠りたい」
「ああ、眠ろう」
紗恵の肌の温もりが心地よい。
◆ ◆ ◆
抱きつかれたので目が覚めた。カーテンの外は薄明るくなっていた。時計をみると5時少し前だった。僕は抱きついている紗恵を愛し始めた。別れる前にもう一度と思ったからだ。次に会うのには1カ月も待たなければならい。そう思うと気持ちが抑えられなくなった。
紗恵は僕が愛し始めたことに気づいて目を覚ましたが、僕の気持ちが分かったのか、あるいは僕と同じ気持ちなのか、それに応えてくれた。また、二人は夢中で愛し合った。そして疲れ果てて眠りに落ちていった。
◆ ◆ ◆
ドアをノックする音で目が覚めた。朝食の準備ができましたというママさんの声がした。時計をみると7時を過ぎていた。紗恵も目を覚ましたが、まだボーとしている。
「朝食の時間みたいだ」
「まだ眠くて腰がだるい」
「まだ疲れが残っているみたいだ」
「でもすごく気分は軽やかで心地よいです。『恋愛ごっこ』ありがとうございました」
「そうだね。身体は重いけど、心は軽い感じかな」
「今日は食事をしたら部屋で休んでから帰ります。朝日を見に行くのはやめませんか」
「そうしよう。十分に元気がもらえたから、ありがとう」
紗恵は身づくろいをすると静かにドアを開けて部屋に戻って行った。僕は洗面して身づくろいをして食堂へ降りて行った。しばらくして紗恵も何気ない振りをして降りてきた。
「昨日はお二人ともお疲れだったのですね。疲れはとれましたか?」
「ここのところ仕事が忙しかったので、寝過ごしてしまいました」
「今日はゆっくりしてから帰られたらいかがですか?」
「そうさせてもらいます」
紗恵を見ると目が笑っている。ママさんはすっかり分かっていてそう言ったのだと思う。
席に着くと紗恵がビールを注いでくれる。僕もビールを注いであげる。そして乾杯する。二人は乾杯がしたかった。紗恵の表情が明るくなっている気がする。きっと僕の表情も明るくなっていたと思う。
ママさんは僕たちが男女の関係になったことに気づいていたと思う。前回泊まった時に僕はベッドに寝た形跡を残さなかったので、それを察したのではないだろうか? でもそのことについては気のつかない振りをしてくれていたのだと思う。少しも触れてこなかった。
食事をしながらお互いの子供のことや職場のことや毎日の生活のことなどを話し合った。もう隠す必要などないし、お互いのことをもっと知りたいと思ったからだった。ママさんは給仕をしてくれながら、そばで黙ってそれを聞いていた。
食事を終えて、紗恵はお風呂をあとからにするというので、僕が先に入った。それからラウンジへ行った。紗恵はオーナーと話していた。
「元気そうだね。何か良いことでもあった?」
「ええ、山本さんにいろいろ話を聞いてもらって、気が楽になったからかもしれません。良い人を紹介してもらったと感謝しています」
「私もそう話していたところです」
「夕食も一緒に食べて楽しかったです。毎月この日が楽しみになっています。それで元気も出ています」
「お二人はいろいろ苦労されているから、そういう楽しいことがあっても良いと思います。これからもここで愚痴を言い合ったり励まし合ったりしたら良いと思います」
そこへママさん後片付けを終えて入ってきた。
「歌を歌ってないの? 私が一曲歌わせてもらうわ。リクエストある?」
「『天城越え』どうですか? ママさんの演歌が聞きたくなりました」
ママの演歌を聞くのは久しぶりだった。相変わらず上手だ。
「オーナーも演歌を歌ってくれませんか?『そんな夕子に惚れました』はどうですか?」
「二人は曲の趣味が変わってきたみたいだね。いいよ」
オーナーの演歌もまんざらではなかった。やはりいつもここで歌い込んでいるだけはある。それから二人で二曲ずつ歌った。でも僕は気もそぞろだった。この後のことで頭が一杯になっていた。それで紗恵の耳元に小声で話した。オーナー夫妻はそれを見ていたと思う。
「このあと僕の部屋で『恋愛ごっこ』しませんか?」
紗恵は頷いた。まるで待っていたかのようだった。そしてすぐに言った。
「ママさん、私はこれで、お風呂に入ります」
そう言うとラウンジを出て行った。
「じゃあ、僕もこれで引き揚げます」
僕もラウンジを出てきた。オーナー夫妻は顔を見合わせていたと思う。もうきっと分かっているから気にしなくてもよい。缶チュウハイを自販機で2本買って部屋に戻った。
待ち遠しかった。ドアをノックする音で立ち上がってドアを開けてすぐに彼女を入れる。紗恵は入ってくると僕に抱きついてきた。身体の関係ができた二人は久しぶりに逢うとすぐにこういう感じになるんだ。別れた芳江とはどうだったか思い出せない。
抱き合ってそのままベッドに倒れ込む。二人にはもうためらわせるものはなにもない。ひと月の間に貯めていた思いを一気に解き放って、ただ、ひたすらに愛し合うだけだ。
紗恵は初めて愛し合った時とは違って二度目は驚くほど積極的になっている。それに触れるところ触れるところが敏感に反応した。
目の前の紗恵に夢中になっていた。ふと別れた芳江とはどうだったかと思い出そうとしたが思い出せなかった。芳江の記憶を紗恵の記憶で上書きしている。そう思った。
◆ ◆ ◆
心地よい疲労が僕を眠りに誘う。今、紗恵はもう僕の腕の中でおとなしく抱かれている。身体を動かすと抱きついてきた。
「このまま眠りたい」
「ああ、眠ろう」
紗恵の肌の温もりが心地よい。
◆ ◆ ◆
抱きつかれたので目が覚めた。カーテンの外は薄明るくなっていた。時計をみると5時少し前だった。僕は抱きついている紗恵を愛し始めた。別れる前にもう一度と思ったからだ。次に会うのには1カ月も待たなければならい。そう思うと気持ちが抑えられなくなった。
紗恵は僕が愛し始めたことに気づいて目を覚ましたが、僕の気持ちが分かったのか、あるいは僕と同じ気持ちなのか、それに応えてくれた。また、二人は夢中で愛し合った。そして疲れ果てて眠りに落ちていった。
◆ ◆ ◆
ドアをノックする音で目が覚めた。朝食の準備ができましたというママさんの声がした。時計をみると7時を過ぎていた。紗恵も目を覚ましたが、まだボーとしている。
「朝食の時間みたいだ」
「まだ眠くて腰がだるい」
「まだ疲れが残っているみたいだ」
「でもすごく気分は軽やかで心地よいです。『恋愛ごっこ』ありがとうございました」
「そうだね。身体は重いけど、心は軽い感じかな」
「今日は食事をしたら部屋で休んでから帰ります。朝日を見に行くのはやめませんか」
「そうしよう。十分に元気がもらえたから、ありがとう」
紗恵は身づくろいをすると静かにドアを開けて部屋に戻って行った。僕は洗面して身づくろいをして食堂へ降りて行った。しばらくして紗恵も何気ない振りをして降りてきた。
「昨日はお二人ともお疲れだったのですね。疲れはとれましたか?」
「ここのところ仕事が忙しかったので、寝過ごしてしまいました」
「今日はゆっくりしてから帰られたらいかがですか?」
「そうさせてもらいます」
紗恵を見ると目が笑っている。ママさんはすっかり分かっていてそう言ったのだと思う。