学園王子の彗先輩に懐かれています
4 俺のネコ!?
4
○校庭。
体育の授業。
準備運動をするために背の順で男女2列ずつに並んでいる。
遅れてきた奈子に、女子たちの視線が集中する。
2年生の色、青色のラインが入ったジャージ。
胸元の名前には『宇月』と刺繍がバッチリ入っている。
女子たち(彗先輩のジャージ!?!?)
奈子(ううっ。すごい目で見られてる……!)
ギロッと奈子を睨む子、ショックで青ざめる子と様々だが、瑠美だけはあいかわらず目を輝かせて奈子のジャージを見つめている。
先生「遅いぞ、白井」
奈子「すみません」
先生「とりあえず1番後ろに並べ」
先生の指示通り、奈子は女子の1番後ろに並んだ。
奈子の前にいるクラスで1番大きい子の身長は168cm。奈子は155cm。
ここに並ぶと、先生の姿がまったく見えなくなった。
奈子(声もあんまり聞こえないなぁ)
この授業で何をやるのかを説明しているらしいが、何を言っているのかまったくわからない。
隙間から先生を見ようと体をピョコピョコ動かしていると、前の女子が突然ドンッと奈子の胸元を突き飛ばした。
奈子(えっ)
危うく尻もちをつきそうになったが、なんとか持ち前の運動神経と体幹の良さでこらえる。
奈子(あぶないっ。彗先輩のジャージを汚しちゃうところだった)
奈子(でも……もしかして、今わざと突き飛ばされた?)
チラッとその女の子を見ると、「チッ」と舌打ちしていた。
奈子(舌打ち! やっぱり!)
奈子(この子、彗先輩のファンなのかな? 私が先輩のジャージを着てるの、嫌だよね?)
自分の着ているブカブカのジャージを改めて見る。
腕の長さも違いすぎて、ジャージから手が出てこない。
奈子(うう……ごめんなさい。でも、授業をサボるわけにはいかないし)
※真面目
奈子(今日だけは許してください)
○校庭から校舎へ向かう道。
体育の授業が終わり、校舎へ向かう奈子と瑠美。
クラスメイトの誰かに呼び止められるかと思ったけど、誰にも声をかけられなかった。
奈子「はぁ……空気が重かった」
瑠美「そりゃあ彗先輩のジャージ着てたらみんなビックリするよ! 貸してくれたの?」
奈子「うん。偶然会って」
瑠美「いいなぁ〜〜。……ちょっと触ってもいいかな?」
奈子「え?」
瑠美は、まるで高価な物に触るかのように指の先だけで優しくチョンと触った。
瑠美「きゃあ〜〜っ! 触っちゃった! 彗先輩のジャージ!」
奈子「あははっ。何その触り方」
瑠美「だって〜〜」
きゃっきゃと盛り上がる2人。
みんなが奈子に冷たい視線を向ける中、瑠美だけはこうして変わらず接してくれていることを奈子は嬉しく思っていた。
奈子(瑠美が友達でよかった)
○学校の廊下。
上履きに履き替え、更衣室に向かおうとする瑠美に声をかける奈子。
お昼休み中なのでそこまで急がなくても次の授業に遅れる心配はない。
奈子「瑠美。私、このジャージを彗先輩に返してから更衣室行くね」
瑠美「わかった〜」
奈子(彗先輩、まだ保健室にいるかな?)
女1「ちょっと!」
奈子「!」
名前は呼ばれてないけれど、なんとなく自分のことかと思った奈子は声のした後ろを振り返った。
そこには、ジャージ姿のクラスメイト数人と2年の先輩数人が腕を組んで立っていた。
奈子「…………」
女の先輩の後ろに隠れてニヤニヤしているクラスメイトたち。
彼女たちが先輩を呼んだこと、そして奈子の着ているジャージについて報告したんだと、奈子はすぐに察した。
女1「ねえ、そのジャージ、彗くんのだよね?」
奈子「…………はい」
女2「なんであんたが着てるわけ?」
奈子「……貸してくれて……」
女3「なんでジャージを貸すってことになるんだよ」
奈子「私のジャージが、濡れて着れなかったから……です」
先輩たちの威圧あるオーラが怖くて、声が小さくなってしまう。
お昼休みで外に出ようと昇降口付近に集まってきた人たちが、チラチラと奈子たちを遠目に見ている。
女1「はあ!? 何それ。ジャージを借りたくて嘘ついたんじゃないの!?」
女2「ああ。やりそう〜。彗くんに近づくために必死になってんの?」
奈子「ち、違います」
女子たちはジリジリと奈子との距離を縮めてくる。
奈子も少しずつ後ろに下がっているけれど、足が震えているせいかあまり距離をあけることができない。
奈子(こ……怖い……)
奈子が彗のジャージをギュッと握りしめたとき、すぐ後ろにあった保健室のドアがガラッと開いた。
中から半袖ジャージ姿の彗が出てくる。
奈子(!!)
女子たち「彗くんっ」
女子たち「きゃあ〜〜っ」
さっきまでとはコロッと変わり、顔を赤らめて彗を見つめる女子たち。
彗はそんな女子たちを一通り見たあと、自分のすぐ近くに立っている奈子を見た。
彗「…………」
奈子の涙目に気づいた彗は、奈子を後ろから抱きしめる。
奈子を含むその場にいる全員「!?」
彗「……俺のネコをいじめたの、あんたたち?」
女子たち「!!」
奈子(俺の!?)
女1「い、いじめてないわ。ちょっと話してただけで」
女たち「そうそう」
みんなコクコクと頷いている。
話してはいけないとされている彗と話せた嬉しさと、その内容が自分たちの嫌がらせに関することで気まずいという複雑な感情の女子たち。
奈子は後ろからハグされているという状況で頭が真っ白になっていた。
彗「ふーーん。じゃあ、ネコのジャージを濡らしたヤツって誰?」
女2「な、なんのこと?」
彗「さっき聞こえた。ジャージ濡らされたからなかったって。誰がやったの?」
女の先輩たちがチラッと1年生女子に視線を向ける。
1年女子たちはみんな慌てて首を横に振った。
女たち「私たちも知らないですっ!!」
彗「ネコ。誰がやったの?」
奈子「!」
彗の質問が奈子に向いて、1年女子たちの顔色がさらに青くなる。
誰がジャージにあんなことをしたのか奈子にはわからないけど、ここにいるクラスメイトが女子トイレに置いてあると教えてくれたことだけは覚えている。
奈子(もしかして、この子たちが……?)
奈子に『お願い言わないで』という目を向けているこの子たちが、おそらく犯人なのだろう。
しかし実際にその現場を見たわけではないし、元々奈子は誰がやったとか彗に話すつもりはなかった。
奈子「……わかりません」
女子たち「!」
1年女子たちが安心したようにパァッと顔を輝かせる。
そんな様子を見て、彗の目がさらに細められた。
彗「そっか。じゃあ仕方ないね。でも……」
彗「俺のネコに何か嫌がらせや文句を言うヤツがいたら、俺……絶対に許さないから」
奈子「!」
女子たち「!!!」
怒鳴るでも睨むでもなく、真顔のまま静かに呟いた彗の闇のオーラに、その場にいた女子たちが全員恐怖で硬直した。
賑やかだった昇降口が、一気にシーーンと静まり返る。
女たち「うっ……」
目に涙を溜めた女子たちは、わああ〜〜と泣きながらその場を去っていった。
後ろからハグされたままポツンと取り残される奈子と彗。
奈子「彗先輩……いいんですか?」
彗「何が?」
奈子「ファンの子たち泣かしちゃって……」
彗「知らない。ファンって言われてもあの子たちが勝手に作ってただけだし」
奈子「…………」
奈子(ファンクラブに本人は全然関わってないのか……)
それより……と、奈子がポツリと呟く。
奈子「あの、そろそろ離れてくれませんか?」
彗「やだ」
奈子の頭の上に顔を乗せて、いまだにくっついている彗。
奈子「彗先輩……寒いだけですよね?」
彗「うん」
半袖の彗が、少しだけカタカタ震えていることに奈子は気づいていた。
奈子(まったく……本人にとってはただのカイロ代わりだったとしても、先輩のファンにとっては衝撃の光景だって全然わかってないんだから)
奈子(寒いからだって気づいたから今は平気でいられるけど、私だって最初はビックリしたし)
私のことをネコって呼ぶくせに、気まぐれでマイペースなところは彗先輩のほうが猫みたいだ。
奈子はクスッと笑いながら、彗先輩を見上げた。
彗「……!」
初めて奈子に笑いかけてもらった彗は、その笑顔を見て心臓が大きく跳ねたような気がしたけど……まだよくわかっていなかった。
彗「……?」
自分の胸に手をあてて「?」となる彗。
○校庭。
体育の授業。
準備運動をするために背の順で男女2列ずつに並んでいる。
遅れてきた奈子に、女子たちの視線が集中する。
2年生の色、青色のラインが入ったジャージ。
胸元の名前には『宇月』と刺繍がバッチリ入っている。
女子たち(彗先輩のジャージ!?!?)
奈子(ううっ。すごい目で見られてる……!)
ギロッと奈子を睨む子、ショックで青ざめる子と様々だが、瑠美だけはあいかわらず目を輝かせて奈子のジャージを見つめている。
先生「遅いぞ、白井」
奈子「すみません」
先生「とりあえず1番後ろに並べ」
先生の指示通り、奈子は女子の1番後ろに並んだ。
奈子の前にいるクラスで1番大きい子の身長は168cm。奈子は155cm。
ここに並ぶと、先生の姿がまったく見えなくなった。
奈子(声もあんまり聞こえないなぁ)
この授業で何をやるのかを説明しているらしいが、何を言っているのかまったくわからない。
隙間から先生を見ようと体をピョコピョコ動かしていると、前の女子が突然ドンッと奈子の胸元を突き飛ばした。
奈子(えっ)
危うく尻もちをつきそうになったが、なんとか持ち前の運動神経と体幹の良さでこらえる。
奈子(あぶないっ。彗先輩のジャージを汚しちゃうところだった)
奈子(でも……もしかして、今わざと突き飛ばされた?)
チラッとその女の子を見ると、「チッ」と舌打ちしていた。
奈子(舌打ち! やっぱり!)
奈子(この子、彗先輩のファンなのかな? 私が先輩のジャージを着てるの、嫌だよね?)
自分の着ているブカブカのジャージを改めて見る。
腕の長さも違いすぎて、ジャージから手が出てこない。
奈子(うう……ごめんなさい。でも、授業をサボるわけにはいかないし)
※真面目
奈子(今日だけは許してください)
○校庭から校舎へ向かう道。
体育の授業が終わり、校舎へ向かう奈子と瑠美。
クラスメイトの誰かに呼び止められるかと思ったけど、誰にも声をかけられなかった。
奈子「はぁ……空気が重かった」
瑠美「そりゃあ彗先輩のジャージ着てたらみんなビックリするよ! 貸してくれたの?」
奈子「うん。偶然会って」
瑠美「いいなぁ〜〜。……ちょっと触ってもいいかな?」
奈子「え?」
瑠美は、まるで高価な物に触るかのように指の先だけで優しくチョンと触った。
瑠美「きゃあ〜〜っ! 触っちゃった! 彗先輩のジャージ!」
奈子「あははっ。何その触り方」
瑠美「だって〜〜」
きゃっきゃと盛り上がる2人。
みんなが奈子に冷たい視線を向ける中、瑠美だけはこうして変わらず接してくれていることを奈子は嬉しく思っていた。
奈子(瑠美が友達でよかった)
○学校の廊下。
上履きに履き替え、更衣室に向かおうとする瑠美に声をかける奈子。
お昼休み中なのでそこまで急がなくても次の授業に遅れる心配はない。
奈子「瑠美。私、このジャージを彗先輩に返してから更衣室行くね」
瑠美「わかった〜」
奈子(彗先輩、まだ保健室にいるかな?)
女1「ちょっと!」
奈子「!」
名前は呼ばれてないけれど、なんとなく自分のことかと思った奈子は声のした後ろを振り返った。
そこには、ジャージ姿のクラスメイト数人と2年の先輩数人が腕を組んで立っていた。
奈子「…………」
女の先輩の後ろに隠れてニヤニヤしているクラスメイトたち。
彼女たちが先輩を呼んだこと、そして奈子の着ているジャージについて報告したんだと、奈子はすぐに察した。
女1「ねえ、そのジャージ、彗くんのだよね?」
奈子「…………はい」
女2「なんであんたが着てるわけ?」
奈子「……貸してくれて……」
女3「なんでジャージを貸すってことになるんだよ」
奈子「私のジャージが、濡れて着れなかったから……です」
先輩たちの威圧あるオーラが怖くて、声が小さくなってしまう。
お昼休みで外に出ようと昇降口付近に集まってきた人たちが、チラチラと奈子たちを遠目に見ている。
女1「はあ!? 何それ。ジャージを借りたくて嘘ついたんじゃないの!?」
女2「ああ。やりそう〜。彗くんに近づくために必死になってんの?」
奈子「ち、違います」
女子たちはジリジリと奈子との距離を縮めてくる。
奈子も少しずつ後ろに下がっているけれど、足が震えているせいかあまり距離をあけることができない。
奈子(こ……怖い……)
奈子が彗のジャージをギュッと握りしめたとき、すぐ後ろにあった保健室のドアがガラッと開いた。
中から半袖ジャージ姿の彗が出てくる。
奈子(!!)
女子たち「彗くんっ」
女子たち「きゃあ〜〜っ」
さっきまでとはコロッと変わり、顔を赤らめて彗を見つめる女子たち。
彗はそんな女子たちを一通り見たあと、自分のすぐ近くに立っている奈子を見た。
彗「…………」
奈子の涙目に気づいた彗は、奈子を後ろから抱きしめる。
奈子を含むその場にいる全員「!?」
彗「……俺のネコをいじめたの、あんたたち?」
女子たち「!!」
奈子(俺の!?)
女1「い、いじめてないわ。ちょっと話してただけで」
女たち「そうそう」
みんなコクコクと頷いている。
話してはいけないとされている彗と話せた嬉しさと、その内容が自分たちの嫌がらせに関することで気まずいという複雑な感情の女子たち。
奈子は後ろからハグされているという状況で頭が真っ白になっていた。
彗「ふーーん。じゃあ、ネコのジャージを濡らしたヤツって誰?」
女2「な、なんのこと?」
彗「さっき聞こえた。ジャージ濡らされたからなかったって。誰がやったの?」
女の先輩たちがチラッと1年生女子に視線を向ける。
1年女子たちはみんな慌てて首を横に振った。
女たち「私たちも知らないですっ!!」
彗「ネコ。誰がやったの?」
奈子「!」
彗の質問が奈子に向いて、1年女子たちの顔色がさらに青くなる。
誰がジャージにあんなことをしたのか奈子にはわからないけど、ここにいるクラスメイトが女子トイレに置いてあると教えてくれたことだけは覚えている。
奈子(もしかして、この子たちが……?)
奈子に『お願い言わないで』という目を向けているこの子たちが、おそらく犯人なのだろう。
しかし実際にその現場を見たわけではないし、元々奈子は誰がやったとか彗に話すつもりはなかった。
奈子「……わかりません」
女子たち「!」
1年女子たちが安心したようにパァッと顔を輝かせる。
そんな様子を見て、彗の目がさらに細められた。
彗「そっか。じゃあ仕方ないね。でも……」
彗「俺のネコに何か嫌がらせや文句を言うヤツがいたら、俺……絶対に許さないから」
奈子「!」
女子たち「!!!」
怒鳴るでも睨むでもなく、真顔のまま静かに呟いた彗の闇のオーラに、その場にいた女子たちが全員恐怖で硬直した。
賑やかだった昇降口が、一気にシーーンと静まり返る。
女たち「うっ……」
目に涙を溜めた女子たちは、わああ〜〜と泣きながらその場を去っていった。
後ろからハグされたままポツンと取り残される奈子と彗。
奈子「彗先輩……いいんですか?」
彗「何が?」
奈子「ファンの子たち泣かしちゃって……」
彗「知らない。ファンって言われてもあの子たちが勝手に作ってただけだし」
奈子「…………」
奈子(ファンクラブに本人は全然関わってないのか……)
それより……と、奈子がポツリと呟く。
奈子「あの、そろそろ離れてくれませんか?」
彗「やだ」
奈子の頭の上に顔を乗せて、いまだにくっついている彗。
奈子「彗先輩……寒いだけですよね?」
彗「うん」
半袖の彗が、少しだけカタカタ震えていることに奈子は気づいていた。
奈子(まったく……本人にとってはただのカイロ代わりだったとしても、先輩のファンにとっては衝撃の光景だって全然わかってないんだから)
奈子(寒いからだって気づいたから今は平気でいられるけど、私だって最初はビックリしたし)
私のことをネコって呼ぶくせに、気まぐれでマイペースなところは彗先輩のほうが猫みたいだ。
奈子はクスッと笑いながら、彗先輩を見上げた。
彗「……!」
初めて奈子に笑いかけてもらった彗は、その笑顔を見て心臓が大きく跳ねたような気がしたけど……まだよくわかっていなかった。
彗「……?」
自分の胸に手をあてて「?」となる彗。