麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
いつもの朝。いつもの地下鉄。そして、いつも通り仕事をする。奈緒にどんなことが起ころうとも、世界は知らん顔で進んでいく。それが、奈緒に与えられる当たり前だ。
沈む気持ちをどうにか軽く出来ないかと思うが、今回のことばかりはどうにも出来そうになかった。
時刻は午後八時。いつもならとっく仕事を終えて帰宅している奈緒だが、遅番だった後輩社員が体調を悪くして早退したため、業務を代わり残業となった。
体力的には辛かったが、仕事をしていれば気を紛らわせれた。
休憩に入ろうとしたところで、ポケットに入れてあった、個人用の携帯がなった。
「……」
相手は美玲だった。
電話に出る気はしなかったが、出ないともっと酷いことになるのは分かっている。
奈緒は一呼吸置くと、電話に出た。
「もしもし……」
『ちょっと奈緒……!!』
電話に出た途端、怒鳴る美玲。電話越しに、眉間に皺を寄せた美玲の険しい顔が想像ついた。
「ど、どうかした……?」
『どうかした? じゃない! ドレス、ほつれてるじゃない。どうしてくれるのよ!』
「えっ、そんなはず……」
(あのドレスはケースに入れて、ずっと大切にしまっていた。ほつれてるなんてこと、ありえないと思うけど)
< 10 / 59 >

この作品をシェア

pagetop