麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
「私の従姉妹、そのホテルで働いています」
そう言われ顔を上げると、そこには、藤色のドレスを着た細身の女性が立っていた。
目が合うと、女性はニコッと、京助に微笑んだ。
長い手足に高身長。繊細な顔立ち。他の女性たちと比べても、美しさは際立っていた。一般的に言えば、器量が良いという言葉を与えられる人間だろう。
「そうでしたか、それは嬉しい限りです」
京助は、特に笑みを浮かべることもせず、当たり障りのない返事をする。
「でも……」
そう言い、女性は顎に手を当て、悩む素振りを見せた。
「あの子、視野が狭いし内向的な性格だから、京助さんのお役に立てているか心配です」
言葉選びはそれとなくしているが、言い方に棘があるように感じた。
それに。
(……蔑んだような瞳をしている)
「どんな方であっても、我が社にとって必要な人材だから、働いていただいているのでしょう」
京助がそう言うと、女性はニッコリと微笑んで言った。
「京助さんは、お優しい方なんですね」
そんな女性を、京助は顔色を変えることなく見ていた。
すると、突然。ハッとしたような顔をする女性。一瞬だったが、怒りと羞恥が混ざったような顔をしたのを、京助は見逃さなかった。
「失礼します」
笑みを浮かべそう言うと、女性は輪を外れてどこかへ行く。なんとなく気になり、その背中を追って見ていると、会場の入り口に、制服姿の女性が立っているのが見えた。
(あの制服……確か……)
怒られているのだろうか。制服姿の女性は、ドレス姿の女性の前、怯えたように身をすくませていた。そして、強引に腕を引っ張られながら、どこかへ消えていった。

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