麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる

__数分前。

裁縫道具を片手に、真っ白なお城のような建物を前にして、奈緒はあたふたとしていた。
美玲が携帯に送ってきたパーティー会場の住所は、Classicalからそう遠くない場所だった。休憩時間は一時間しかない。その合間になんとか終わらせようと、奈緒はタクシーを使い、急いでここにやって来たのだ。
(どうしよう。中、入ってもいいのかな。でも……)
建物の入り口に立っていた警備員が、不審な動きを見せる奈緒を視界に捉えた。
じっと見てくる警備員。
「あの、私……このパーティーに来ている人に呼ばれて……」
「ああ、フィッティングスタッフですね」
「え?……あ、はい! そうです!」
どうやら、制服を着ていたことが功を奏したようだ。警備員は心よく奈緒を建物内に入れてくれた。
中に入ると、すぐに美玲にメールを送るも返信はない。
水の音が聞こえて携帯から顔を上げると、エントランスの中央に、階段に囲まれた噴水があった。
(すごい……建物の中に噴水がある)
つい感動して立ち止まってしまったが、すぐにそうしている暇がないことに気付かされた。
辺りを見渡していると、噴水の奥に大きな扉があるのが見えた。
(美玲姉さん、あの先にいるのかな。勝手に行って、大丈夫かな……)
気が引けたが、こうしている間にも、休憩時間が終わる時間は刻一刻と近づいている。
奈緒は扉を開けることにした。


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