麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
「うわぁ……!」
扉を開いて、思わず声を漏らす。そこには、別世界が広がっていたのだ。
高い天井には、ダイヤモンドのように光り輝く大きなシャンデリア。程よく音量の保たれた優雅なクラシック音楽が、プロの音楽家によって演奏され、スーツに身を包んだ洗練された紳士と、ドレスで着飾った華やかで美しい淑女の笑い声が、煌びやかな会場を包んでいた。
グラスとグラスが合わさり奏られる音が、風鈴のように奈緒の耳を駆け抜け、香淳な花の香りが、心を潤していくようだった。
(まるで、絵本で見たおとぎ話の世界みたい)
奈緒は眩しさを感じながら、目に映る世界に、全身で魅了されていた。
会場の中心に、人の輪が出来ていた。その輪の中に、母の藤色のドレスを着た美玲がいた。
声をかけたかったが、ここからでは声が届くはずもなく、電話をしようと制服のポケットに手をかけた時だった。

__その瞬間、奈緒の横を強い風が吹き抜けた。

(なんて……綺麗な人なの)
奈緒の瞳は、一人の男性で埋め尽くされた。
輪の中心にいた男性は、この世のものとは思えないほどに、麗しい人だった。
奈緒は、惹きつけられるように、男性に見入ってしまっていた。
(あんな人が、この世界に存在するなんて……)
「__奈緒……!!」
怒鳴り声が頭上から降ってきて、奈緒は我に返った。
いつの間にか、美玲が目の前に来ていたのだ。
「そんな格好でこないでよ。恥ずかしい」
美玲は、汚い物でも見るかのような目を奈緒に向けてきた。
「ごっ、ごめんなさい……」
美玲は奈緒の腕を力強く掴むと、無理やり引っ張った。
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