麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
控え室に連れられてくると、奈緒は美玲の前に跪いた。ほつれていると言っていたのは、スカートの裾部分だった。
(思っていたより酷い……お母さんのドレスが、こんな風になるなんて……)
美玲が手荒にドレスを扱ったことは間違いなかったが、奈緒が言えるはずもなかった。
耐えるしかないのだ。どんな仕打ちを受けたとしても。
持ってきた裁縫道具から針と糸を取り出し、ほつれた箇所を出来るだけ丁寧に直していく。
「あんた、さっき京助さんに見惚れてたでしょ」
「えっ?」
顔を上げると、美玲の冷たい視線が胸に刺さる。
奈緒はすぐに視線を手元に戻した。
(あの人、京助さんって、言うんだ……)
「無駄よ。あの人は、あんたなんかが相手にされる人じゃないの」
無駄な希望を持つなと、先手を打つように美玲は言う。
「ごめんなさい……すごく、綺麗な人だったから……」
見惚れてしまっていた。それはもう、この世界に、あの男性しかいないくらいに。
ふんっと、美玲が鼻で嘲笑う。
「あんたにはその格好がお似合いよ」
顔を上げずとも、美玲がどんな目で自分を見ているのか分かっていた。
奈緒は泣きそうになるのを我慢して、ドレスを直し続けるしかなかった。
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