麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
ドレスを直し終えた奈緒は、控えを室を出て、出入り口に向かっていた。
エントラスまで来たところで、仕事用の携帯電話が鳴る。何かあったのかと、奈緒は慌てて電話に出た。
「はい、如月です」
相手は、宿泊部門のマネージャーで、今日はもう帰っても大丈夫だということだった。
神様が、こんな自分にもご褒美をくれたのかもしれない。奈緒はそう思った。
電話を切ると、一気に肩の力が抜ける。
ポケットに携帯を戻すと、エントランスを見渡す。
(もう二度と、こんなところに来られないだろうな……)
そう思いながら、名残惜しくもホテルを出ようとする。
だが、足を止めた。

(__もう一度だけ)

最後に、彼の姿を一目みたい。そう思うと、体は自然と出入り口とは反対に向きを変え、歩き出していた。
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