麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
「__そこで何をしているんですか」
いきなり後ろから聞こえた声に、驚いて肩をすくめる。
男性にしては少し高いが、力強さを感じる声だった。
雲に隠れていた月が姿を現し、月光が二人を照らした。
「あ、えっと……」

__後ろに振り向いたその瞬間、奈緒は息を呑んだ。

(嘘__なんで彼がここに……)
そこに立っていたのは、あの麗しき男性だった。
数秒、いや、それ以上の時間だっただろうか。石のように固まった奈緒は、瞬きもせずに男性を見つめた。
「聞いているのですが」
ビー玉のような瞳が、再び奈緒に問う。その声にハッとして、慌てて正面に向き合う。
「やっ……私……」
(どうしよう……上手く話せない……)
奈緒は服の上から胸を掴んだ。心臓が、今までにないくらいに脈打って苦しかった。
すると、男性の手が奈緒へ伸ばされる。咄嗟のことに、奈緒は男性から離れるように、一歩後ろに下がった。
「……」
「すっ、すいません……私、勝手にここに来てしまって」
「いえ……別に大丈夫ですよ」
そう言うと、男性は奈緒の横に腰を下ろした。言い方はそっけなかったが、奈緒がここにいることは、不快に思っていないようだった。
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