麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる

切なく、ほろ苦い香りがした__。

誰かが、自分に別れを告げた夢を見た。
眩しい朝日に照らされるも、目を開けたくなかった。
まだ眠っていたい。京助は、隣にいる彼女の身体を抱きしめようと腕を伸ばしたが、触れるのは、シーツに残された温もりだけ。
仕方なく目を開けると、まどろんだ視界が段々と輪郭をつけていく。そしてはっきりとした視界が捉えたのは、隣が空になったベッドだった。
焦ってガウンを着てリビングに行く。だが、そこにも奈緒の姿はなかった。
京助の視線は、玄関へとつながる廊下に向けられた。
(行ってしまったんだ……)
何も置かれていないテーブルの上に視線を落とす。
電話番号を書いた置き手紙もないあたり、もうこれ以上、自分とは関わりを持ちたくないのだろうか。
京助は、どこからともなく現れた虚無感に襲われた。
「……一夜限りの関係って? 君はそんな人じゃないでしょう」
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