麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
一度自宅に戻った奈緒は、シャワーを浴びて着替えを済ませると、ホテルに出勤していた。
魔法のようなひとときには、終わりを告げたのだ。
「如月さん」
洗濯を終えたシーツを取り込んでいると、支配人に呼ばれた。
「今から、スイートルームの清掃をお願い出来ますか?」
そう言い、支配人はゴールド色のカードキーを渡してくる。
「えっ……私がですか?」
「はい」
「ですが、私では」
「上の指示です」
(……どう言うこと?)
スイートルームは、このホテルで一番、豪華な部屋。そこの清掃を任されるのは、VIP専門の客室係か、マネージャーほどの役職がある人と決まっている。一般客室担当で、なんの役職もない奈緒に任されることなど、あり得ないのだ。
奈緒が困惑していると、支配人は「お願いします」とだけ言い行ってしまう。
清掃カートを押し、従業員用のエレベーターに乗る。
エレベーターはどんどん浮上していき、すぐに街を見下ろせる高さまできた。
初めて手にしたスイートルームのカードキーを、まじまじと見る。入社当時、一度だけ本物を見せられたことがあったが、触れたのは初めてだった。
ただ部屋を開け閉めするカードと言えばそうなのだが、奈緒にとっては恐れ多すぎる。
(しっかりしないと)
気を引き締めたと同時に、エレベーターが最上階に到着する。
カートを押しながらエレベーターを降りて、突き当たりの角を曲がると、一般客室よりも重厚なドアが奈緒を出迎えた。 
カードキーをセンサーに近づけると、ピーと認証合図音がし、ガチャッと部屋の鍵が開く音がした。ドアノブを回すと、部屋の中に入った。
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