麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
(……あれ?)
部屋に入り、不思議に思った。清掃をするように言われて来たものの、部屋はすでに整っていた。
思えば、こんな時間からの清掃もおかしい。ホテル内はすでにチェックインの時間を過ぎている。
すると、ガチャリとドアが開く音がした。
「奈緒さん?」
その声に、奈緒の体は痺れるように脈打つ。
ゆっくりと近づいてくる足音。
入って来たのは、昨夜を過ごした相手、京助だったのだ。
(な、なんで京助さんがここにいるの……!?)
「すいません、お仕事中に。こんな騙すような形でお呼びしてしまって。どうしても、君に会いたかったんです」
驚きのあまり、奈緒が声も出せずに固まっていると、京助が悲しそうな顔をした。
「朝、起きた時、君が隣にいなくて、僕はとても寂しかった」
一歩、京助が前に踏み出し、体が近づく。奈緒は反射的に仰け反ってしまう。
「どうして、いなくなってしまったんですか?」
捨てられた子犬のような瞳で見られ、自分がすごく悪者に思えてしまう。
何も答えられずにいると、顔を近づけられる。
奈緒の体温は一気の上昇した。
「ち、近いです……! とりあえず、離れて……!!」
奈緒はぐいっと、両手で京助の胸元を押し退けた。
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