麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
深呼吸をして、うるさく鳴り響く心臓を、なんとか落ち着かせる。
「まず、どうしてあなたがここにいるのかを教えて下さい」
奈緒がそう言うと、京助はきょとんとした顔をした。何を言っているのだと言いたげだ。
「ここは僕の経営するホテルですから、いるのは当然でしょ?」
「……えっ?」
自分の耳を疑った。
聞き間違いだろうか。今、僕の経営すると言ったのか。
「あの、失礼ですが、京助さんの苗字は……」
どうか違いますようにと、奈緒は恐る恐る聞いた。
「新田です」
しかし、願いは虚しく散る。
「つまり……あなたは、このホテルの社長の新田京助……」
覇気のない声で言った奈緒に、京助は怪訝な顔をした。
「……ええ、そうですけど……」
(私ってば、なんてことを__!)
奈緒は咄嗟に、部屋を出ようとした。
しかし、ドアに手をかけたところで、後ろから腕が伸びてきて、囲うようにぎゅっと抱きしめられる。
ふんわりとした、優しい上品な香りが、奈緒を包み込む。
「行かないで。君が好きなんだ」
囁かれるように言われたその言葉に、奈緒の細胞は震えるように起き上がる。
「やっ……あの」
「ダメ……行っちゃダメだ」
手を解こうにも、解かせてくれない。
「お願いだ……」
言葉を紡ぐごとに、腕に込められた力が強くなる。
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