麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
「僕とのこと、あまり良いように捉えてくれていないんですね」
考え込んでしまった奈緒を見て、京助は落ち込んだように言った。
奈緒は内心焦った。
京助が悲しんでいる__と。
「……それでも、僕はあなたを愛しています。僕と__結婚していただけないでしょうか」
一直線に、一切の躊躇なく京助は言う。
奈緒は言葉が出なかった。
(嬉しかった。だけど……私みたいな、何の取り柄もない人間が、京助さんのような上流階級の人と釣り合うとは、到底思えない。住む世界が違いすぎる。それに……)
奈緒の頭には、両親の顔が浮かんだ。
(私は……)
すると、手を取られ、胸元に押しつけられる。
京助の心臓は、あの夜のように鼓動を速めていた。
(っ……おかしいよ。こんなのまるで……京助さんの心が叫んでるみたいじゃない。私が___欲しい。って)
「あなたがいい。僕は、あなたじゃなきゃ、ダメなんです」
こんなにも真っ直ぐに自分を求めてくれる京助を、奈緒が受け入れようとしないはずがなかった。
「け……結婚は、早すぎます。まずは、お付き合いからでは、どうでしょうか……?」
奈緒がそう言うと、京助は嬉しそうに笑って、奈緒を抱きしめた。
「ありがとう」
愛しくて、愛おしくて、ただそれだけの苦しさだった。
(……ああ、そっか……)
奈緒は気づいた。あのとき感じた、愛しさと切なさ、そしてあの怖さは、彼を愛しているからなのだと。
自分を囲う背中に、奈緒は両腕を回して、抱きしめ返した。
力強く。
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