麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
「新田社長、今回はニューヨークだっけ?」
仕事が始まっても、社員の間は新田社長の話題で持ちきりだった。奈緒も耳だけは傾けながら、清掃カートにシーツや枕カバーなどを載せていく。洗いたてはふわふわとした手触りで、お日様のような心地良い香りがして、奈緒はこの瞬間が好きだった。
「らしいよ」
「いいなー、何かの間違いで会えたりしないかな」
世界中を飛び回って仕事をしている新田社長は、いつも外国のどこかにいる。そのこともあって、社員の奈緒たちすらも会えないことは、何の不思議でもない。
「でも、いつも無表情で、何考えてるか分からないって聞いたよ」
「そこがいいんじゃーん。ねえ、如月さんはどう思う?」
「え?」
いきなり話を振られ、驚いて目を見開く。気づけば、一人挟んで隣に立っていた同僚が、横から顔をひょっこり出し、こちらを向いていた。
「社長に会ってみたいよね?」
特に何とも思っていなかったが、期待の眼差しを向けられ、否定できなかった。
「えっと……うん、そうだね。会って、みたいかも」
仕方がなくそう答えると、同僚は「だよね!」と嬉しそうにはしゃいでいた。
ベールに包まれたミステリアスな彼は、ホテル社員注目のまと。一度でいいからお目にかかりたいと思う、高嶺の花のような存在。そんな彼が帰国する。舞い上がらない人がいる方がどうかしているのかもしれないが、奈緒はその一人。恋沙汰には、あまり前向きな気持ちを持てないのだ。
何があっても、自分にはこの仕事があればいい。そんな風にして、奈緒は他人事のように考えていた。
仕事が始まっても、社員の間は新田社長の話題で持ちきりだった。奈緒も耳だけは傾けながら、清掃カートにシーツや枕カバーなどを載せていく。洗いたてはふわふわとした手触りで、お日様のような心地良い香りがして、奈緒はこの瞬間が好きだった。
「らしいよ」
「いいなー、何かの間違いで会えたりしないかな」
世界中を飛び回って仕事をしている新田社長は、いつも外国のどこかにいる。そのこともあって、社員の奈緒たちすらも会えないことは、何の不思議でもない。
「でも、いつも無表情で、何考えてるか分からないって聞いたよ」
「そこがいいんじゃーん。ねえ、如月さんはどう思う?」
「え?」
いきなり話を振られ、驚いて目を見開く。気づけば、一人挟んで隣に立っていた同僚が、横から顔をひょっこり出し、こちらを向いていた。
「社長に会ってみたいよね?」
特に何とも思っていなかったが、期待の眼差しを向けられ、否定できなかった。
「えっと……うん、そうだね。会って、みたいかも」
仕方がなくそう答えると、同僚は「だよね!」と嬉しそうにはしゃいでいた。
ベールに包まれたミステリアスな彼は、ホテル社員注目のまと。一度でいいからお目にかかりたいと思う、高嶺の花のような存在。そんな彼が帰国する。舞い上がらない人がいる方がどうかしているのかもしれないが、奈緒はその一人。恋沙汰には、あまり前向きな気持ちを持てないのだ。
何があっても、自分にはこの仕事があればいい。そんな風にして、奈緒は他人事のように考えていた。