麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
第二章

動き出した秒針


__愛おしい。

それは、三十四年間生きてきて、初めて知った感情だった。
仕方なく参加したパーティー。息抜きに会場を出ると、導かれるように庭園にやってきた。そこには、経営するホテルの制服を着た女性がいた。
それが奈緒だった。
たった一晩。京助が奈緒と共にした時間は僅かだった。それなのに、京助の心は、完全に奈緒に奪われた。
「社長、聞いていますか」
目の前には、手帳を片手に業務連絡をする秘書の花井がいるが、京助の視界には入らない。頭の中は、奈緒のことでいっぱいだ。
遠くを見つめる京助に、花井は口を半開きにさせていた。
いつもの京助ではない。
花井はわざとらしく咳払いして、京助の気を引く。
「何かありましたか?」
物思いにふけていた京助が、ぼんやりとした目で花井を見た。
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