麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
京助との初デートは、告白から数日たった仕事終わりだった。食事をしませんかと誘われ、奈緒がやってきたのは、大正時代から続いているという、敷居の高い料亭だった。
立派な門構えに圧倒されていると、一台の高級車が店の前に泊まり、運転席から京助が降りてきた。
「お待たせしてすいません」
「い、いえ……!」
こちらに駆け寄って来る京助。
相変わらず、京助を目の前にすると緊張してしまう。
京助に続いて店の中に入ると、感じの良い女将が出迎えてくれた。新田家とは、昔から馴染みのある料亭らしく、女将はお久しぶりですと京助に頭を下げていた。
隣にいる奈緒を見て、にっこりと微笑む女将。その姿に、京助と自分の関係を知っているのだと思い、奈緒は気恥ずかしくて、頬を染め俯いた。
女将に案内されたのは、店の一番奥の襖にある、完全個室の部屋だった。
畳の上に座り、木製のテーブルを挟んで向かい合う。
敷居の高い料亭に、美しすぎる京助。奈緒は落ち着かず、そわそわしていた。
「すいません。初デートにしてはやりすぎかとも思ったのですが、奈緒さんの立場上、ホテル内や野外で僕と話すのは、気がきではないかと思いまして」
少し申し訳なさそうに微笑む京助。
(私のために……)
自分のことを気遣ってくれたことに、奈緒の心には燈が灯るように、温かくなった。
話をしていた知ったが、京助は奈緒より八つ年上の三十四歳だった。落ち着きのある姿から、年上であるだろうとは思っていたが、一回り以上も年が離れているとは思わなかった。
「こんなおじさんが、君みたいな若い人を好きになってしまうなんてね」
そう言った京助だったが、奈緒からすれば、京助の見た目は三十半ばに差し掛かっているように見えないほど、若々しかった。
「きょ、京助さんは、とってもかっこいいですよ……!」
振り絞ったように奈緒がそう言うと、京助は照れたように片手で顔を隠した。その姿が、何だか年相応でなくて、可愛いと思ってしまった。
「ありがとう……君も美しいよ」
そう言われ、自分も照れて顔を俯かせてしまう。
(美しいなんて、初めて言われた)
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