麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
目を伏せる京助。
「僕は、長い間待っていた。君に出逢うのを」
情熱的なビー玉の瞳と、視線が絡み合う。
「僕は、君が好きで好きで、たまりません。今日だって、このまま連れ去ってしまいたいなんて、紳士らしくない考えが、頭に浮かんでいるんですから」
京助の誠実さと真っ直ぐさが、優しく奈緒の中に流れ込んでくる。
目頭が熱くなって、鼻の奥がツンとする。涙で視界が歪んだ。
(悲しくないのに、泣きたくなるのはどうして何だろう……)
頬を包み込む京助の冷えた両手。その上から、奈緒は手を重ねた。
「連れ去って下さい……」
奈緒がそう言うと、困ったように微笑む京助。
「そう言うことを、気軽に言ってはダメですよ」
「京助さんにしか言いません」
「まったく……君って人は、どこまで僕を魅了すれば気が済むんだ」
京助は奈緒の瞼に、そっとキスをした。
「好きですよ。奈緒さん」
(ああ……本当に、この人を愛さない方がおかしい……)
「……私も、京助さんが好きです」
重なる唇。
人目も気にせず、唇を重ね合うなんて、奈緒は自分がこんな大胆な女だとは知らなかった。
(この人と結婚できたら、どれだけ幸せだろう……)
頬を伝う涙は、とても温かかった。
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