麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
第三章

開く未来

いつもの朝、いつもの地下鉄。そして、いつもの仕事。だけど、こんなにも世界が輝いて見えるのは、京助という存在がいるからだろう。
生きるのに必死で、誰にも愛されず、誰かを愛すことなく、幸せになど触れず、だだ死ぬ時を待つだけだと思っていた。毎日がこんなにも幸福に包まれるなんて、自分はなんて贅沢な人間なんだろうか。
昼休みになり、奈緒はホテル近くにあるカフェでランチをしようと、ホテルを出た。
(京助さんも、今頃お昼食べてるかな。いつも忙しそうだし、ちゃんと食べれているのか、ちょっと心配)
今度、迷惑じゃなかったら、お弁当でも作ろうか。そんなことを考えながら歩いていると、
「奈緒」
急に聞こえた自分の名前に振り向けば、そこには美玲が立っていた。
さっきまで心を満たしてた幸福感が、波のように一気に引いた。
凍るように、背筋に何かが張り付く。
「み、美玲姉さん……」
「お昼?」
奈緒の片手に握られた携帯と財布を見て、美玲は言う。
「う、うん……」
(何の用で、来たんだろう……)
「今、近くで撮影してて、私もちょうどお昼食べようと思ってたの。一緒にどう?」
行きたくなんてない。だが、こう言う時も、決まって奈緒に断る余地などない。
小さく頷いた奈緒を見て、美玲は先に歩き出す。
奈緒は黙って美玲の後ろに続いた。
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