麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
向かい合って座った美玲は、口元に上品な笑みを浮かべ、店員に自分と奈緒の分の料理を注文した。
笑みを絶やさない美玲だが、奈緒をじっと見るだけで、何も話さない。
美玲は酷く穏やかだった。それがとてつもなく恐ろしくて、奈緒は膝の上に両手を置いたまま俯き、石のようにじっとしていた。
訪れるであろう嵐が、少しでも早く過ぎ去ることを願いながら。
注文したアイスティーが届くと、美玲はやっと口を開いた。
「こないだ、借りたドレスを返しに行ったんだけど、あんた、家にいなかったよね?」
京助とデートをしたあの夜、奈緒は自宅には帰らず、京助の家に泊まった。翌朝、自宅に戻ると、ドアノブに紙袋がかけられていた。中には、美玲に貸した母のドレスが入っていた。
「メール、気づかなくてごめんなさい」
「そんなことはどうでもいいのよ」
言いながら、美玲はスマホを片手で操作する。そして、奈緒の方に向けて、携帯をテーブルに置いた。
(えっ__)
画面を見て、奈緒の心臓は大きく飛び跳ねた。
画面に写っていたのは、京助と奈緒が手を繋いで、仲良く並んで歩く姿だった。
(こんな写真、一体いつ撮られたの……?)
「……ねぇ、これ、どういうこと?」
奈緒から視線を外し、ストローでアイスティーをかき混ぜながら、静かに問う美玲。グラスと氷がぶつかる音が、やけに大きく聞こえた。
「なんで、あんたが京助さんと一緒にいるの?」
口調は穏やかなままだが、その言葉には怒りが込められている。
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