麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
「社長、少しお時間よろしいでしょうか」
社長室に来た花井は、神妙な面持ちをしていた。
「どうかした?」
「失礼を承知で、誠に勝手ながら、如月奈緒さんについて調べさせていただきました」
そう言って、花井は京助に、一つのファイルを差し出してきた。
気が引けたが、何もないのに花井が時間を割くことはしないと思い、京助はファイルを受け取った。
花井が調べただけあって、そこには、奈緒のことが事細かに書かれていた。
両親は彼女が八歳の時に、交通事故で亡くなくなった。残酷なことに、その日は彼女の八歳の誕生日だった。その後、彼女は父方の叔父夫婦に引き取られたが、夫妻は実子だけを可愛がり、彼女に愛情を注がなかった。それだけではなく、従姉妹は彼女を蔑み、虐げてきたのだ。
(愛されることに酷く不慣れで、自信もなく、すぐに自分なんかと己を卑下する。訳アリそうだとは思っていたけど、そういうことか……)
当時八歳だった彼女にとって、夫妻たちは世界の全て。見放されれば、自分は生きていけないと思ったんだろう。だから、必死に縋りついた。自分の心をすり減らせようとも。その名残が消えず、今も尚、従姉妹の横暴さにも従ってしまう。
京助は静かにファイルを閉じた。
「それを見ても、まだ彼女との関係を続けるおつもりですか?」
緊迫した様子の花井。京助と奈緒の関係に、不安だけが積もっているのだろう。
「結婚相手は見つかった。花井も喜んでくれると思っていたけど」
「それが普通の人ならです。如月奈緒さんの家庭環境は普通ではありません。ご両親を失ったことには深く同情しますが、引き取った親戚たちは最悪です」
「じゃあ、尚更早く結婚しないとね」
顔を顰める花井。
「私の話を聞いてましたか? 彼女が社長と結婚したとなれば、向こうは何を要求してくるか分かりません」
花井の言いたいことは分かる。京助と奈緒の関係を夫妻が知れば、二人が京助にお金を要求したりすることは、十分に考えられることだ。
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