麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
美玲からまた急な呼び出しがあり、仕事を抜け出してラウンジに行くと、そこには京助がいた。二人は目を見合って、真剣に何かを話していた。
奈緒に気づいた美玲は、にんまりと笑った。
心が蝕まれるように、息が苦しくなった。
奈緒に気づいた京助は、慌てたように目を見開いた。
奈緒はいても立ってもいられず、その場から走り去った。
(どうして、どうして、どうして……)
胸の内でどれだけ言葉を吐いても、誰も答えてはくれない。
奈緒は、誰もいないホテルの備品室に逃げ込んだ。
ドアに背を預け、体を小さく丸めて座り込む。
「っ……くっ……」
必死に声を押し殺そうとするも、今まで我慢していた分、止めどなく涙が溢れ出てくる。
冷たいコンクリートの壁と床は、奈緒を慰めてはくれない。
絶望だった。唯一の光だった京助を失おうとしている。奈緒にとって、これ以上、苦しいことはない。
(ばちが当たったんだ。お父さんとお母さんをあんな目に遭わせておいて、自分だけ幸せになろうなんて、そんな都合の良い話を神様が許してくれるはずがない)
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