麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
外側からドンドンドンッと扉を叩かれる。
「奈緒さん……!」
京助だ。息を切らしているのか、荒い呼吸がドア越しでも伝わってくる。
走って追いかけてきてくれたのだと、奈緒は嬉しくてドアノブに手をかけようとしたが、止めた。
さっきの二人の光景が、頭によぎった。
忘れたいと、奈緒はぎゅっと目を瞑った。
「……奈緒さん」
穏やかな優しい声。泣いている子供をあやそうとしているかのようだ。
「僕と会えますか」
「……」
「……では、そこで聞いてください」
「ふぅー」と、息を整える京助。そして、静かに話し出す。
「秘書から、君の生い立ちを聞きました。ご両親のことも、引き取った親戚のことも。……従姉妹のことも」
(知られたんだ。全部……京助さんは知ったんだ。私が、どれほど酷い人間かも……)
奈緒は消えてしまいたかった。
「君のせいじゃない」
目を開けた奈緒は、ドア越しに、京助がしゃがみ込んでいることを感じ取った。
「ご両親が亡くなったのは、事故です。君のせいではありません。君がそこまで胸を苦しませ続けるのは、君がご両親を愛し、ご両親も君を愛していたからです」
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