麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
別れましょう。その一言さえ言えれば、楽になるのかもしれない。だが、奈緒は言えない。それを口にすることが、何よりも耐え難かった。
「君は聡明で、美しい心を持つ立派な女性です。そんな君だからこそ、僕は守りたいと思う。……奈緒さん。君は愛されるべき人だ」
京助と出会ってからは、今まで以上に苦しい思いをしてきた。今だってそうだ。心が引き裂かれそうだ。
それでも、彼を好きになれてよかったと思う。
ご飯を食べる時、優しく見つめてくれる。寝る時、愛おしそうに額にキスをしてくれる。瞬時に心の変化に気づいて、安心させてくれた。そうやって、京助はたくさんの愛情を奈緒にくれた。
(私……本当に京助さんが大好きなんだ……)
何かを考えるように少しの沈黙の後、決意したように、京助は口を開く。
「十日後、このホテルで、我が社の創立記念パーティーがあることは知っていますね? そこで、君に伝えたいことがあります。僕がマネージャーに言って、仕事を早く上がれるようにしますので、会場に来てください」
「約束ですよ」と、京助は願うように呟く。
そして、
「忘れないで、僕は君を心から愛している」
京助がドアから離れる気配がした。足音が遠のいていく。
奈緒は勢いよくドアを開けた。だが、もうそこには京助の姿はなかった。長い廊下が、どこまでも果てしなく続くように思えた。
(京助さん……)
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