麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
日本を代表する大企業、新田産業。京助の祖先が創立し、現在は祖父が会長を務める、日本最大級のホテル企業。その人気は世界を股にかけ、総資産は数千億と言われている。
そんな上流階級の家に生まれた京助は、容姿端麗、頭脳明晰。天が二物を与えたと思わせる完璧な男だった。
「ねえ、パーティー、行かなきゃダメ?」
仕事の疲れから一息つきたいのも事実だが、出来るなら、騒がしく退屈なあの場から遠ざかりたかった。
そんな京助を、花井は容赦なく撥ね付ける。
「ダメに決まっているでしょ。なんのためにチャーター機を用意したと思っているんですか。パーティーに間に合うようにです。それに、今日は会長も来られます。これがどう言う意味か、分かっていますよね?」
そう言われ、京助は逃げるように窓の外に視線を向けた。そんな京助を見て、花井は真剣な口調で話を続ける。
「社長。秘書である私が言うのも厚かましい話ですが、いい加減、身を固めなくてはなりません。あなただって、代々続く家業を終わらせたくはないでしょう?」
今年で三十四歳になった京助。世間一般的な婚期は過ぎているが、仕事がこんなにも順調であると言うのに、結婚出来なければ、ああだこうだと言われるのは、生きづらく感じるものだと思う。
(花井の言う通り。跡継ぎは必要だ。それに……家庭を持ちたい気持ちも、ないわけではない)
「……分かってるよ」
「空港まで時間があります。少しでも仮眠をとってください」
そう言ったきり、花井は何も言わなかった。
京助は視線を正面に戻すと目を閉じた。
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