麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
「ねえ、美玲ちゃん。早く行きましょうよ」
母親が美玲の腕を掴み、揺すって言う。父親は奈緒を見ることもせず、そっぽを向いたままだ。
相変わらず、美玲の両親は奈緒になんの関心も興味もないのか、まるでいない存在として扱う。
(……もう、嫌だ……)
今までなんとか堪えてきていたが、もう、限界だった。
これ以上、ここに留まることが出来ず、奈緒はその場から離れようとした。
しかし、美玲に腕を掴まれる。
「ちょっと、どこ行くのよ」
「は、離して……」
奈緒が逆らったことが気に食わなかったのか、美玲は顔を顰め、腕に込める力を強くした。
(い、痛いっ……)

っと、その時だった__。

「離せ」
少し高く品のある、だが、怒りを露わにした声。
隣を見上げると、そこには京助が立っていた。
いきなり現れた京助に、会場の視線は一気にこちらに向けられる。声量は決して大きくないと言うのに、その存在が放つオーラに、誰もが惹きつけられている。
「見て、京助さんよ」
「噂にには聞いていたが、本当にお綺麗な方だ」
「隣にいる方はどなた? 何の騒ぎなの?」
口々に話し出す周りをよそに、京助は美玲の腕を掴み、険しい表情を浮かべている。
「きょ、京助さん……」
美玲は驚いたように目を見開き、さっと奈緒の腕から手を離すと、すぐに奈緒を見下していた笑みを引っ込め、外向けの笑顔を京助に向ける。
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