麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
くると体の向きを変え、奈緒に微笑む京助。
優しく、穏やかな笑み。いつもの京助だった。
「そのドレス、とても良く似合っています。清らかな君にぴったりだ。……綺麗だよ」
「……あ、ありがとうございます……」
いつの間にか、フロアではダンスが行われていた。
片手を差し出す京助。
「僕と踊っていただけますか?」
その手を取りたかった。だがその前に。
「……私の話を、聞いてくれますか?」
奈緒の真剣な瞳を数秒見つめると、京助は頷いた。
「……私は、家族にコンプレックスがあります。八歳の時、両親が交通事故で亡くなりました。私の……誕生日ケーキを買いに行った帰りでした」
今でも鮮明に覚えている。両親が帰ってこなかった、あの雨の日を__。
小刻みに震え出す奈緒の両手。震えを抑え込もうと、胸の前で手を重ね握りしめていると、奈緒の両手を、京助の大きな手が包み込んだ。
優しく微笑む京助。大丈夫だと、言ってくれているのだ。
「っ……私は……人を愛することが怖い。いつか、あなたが私の前からいなくなってしまった時。いつか、永遠に会えなくなってしまう時。私は、ちゃんと立っていられるだろか……。そんなことを、考えてしまいます」
ずっと臆病だった。誰かを愛することに不慣れで、愛しかたさえも、今だって分からない。
それでも。
「あなたと生きたい。こんな私でも、愛してくれますか……?」
(あなたが、こんな私でもいいと言ってくれるなら)
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