麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
エピローグ

限りない人


初めて彼女を抱いた日のことを思い出していた。

息を切らしながら、何度も自分の名を呼ぶ。涙を溜めたその瞳に、胸が締め付けられた。
背中に回された小さな手は、全身で自分を求めていた。
その時、京助は奈緒を守りたいと思った。これが、誰かを愛おしいと思う気持ち。初めて知った。
サイドテーブルに置いてあった携帯が揺れていた。相手は花井だった。
京助は携帯を手に取ると、奈緒を起こさぬよう静かに寝室を出た。
ソファーに腰を下ろし、電話に出る。
「お疲れ様です」
どことなく安堵したような花井の声。奈緒のことを認めてくれたのだろう。
「お祖父様は?」
『お二人のダンスを見られた後、帰られました。心配は無用だったなと仰って』
「そう……」
きっと、祖父も自分たちのことを認めてくれたのだろう。
(まあ、半分は諦めの気持ちがあるだろうけど。花井と同じで)
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