麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
奈緒の両親は、奈緒が八歳の時に交通事故で亡くなった。それから、奈緒は父方の叔父夫婦である、従姉妹の美玲の家に引き取られたが、良い扱いはされなかった。お荷物でしかない奈緒は、夫婦にとっては邪魔な存在だったのだろう。
二つ年上の従姉妹の美玲(みれい)は、モデルの仕事をしていて、美人でスタイルも良いが、気性が荒いところがあり、奈緒を嫌っている。こういった横暴な振る舞いをされるのも日常茶飯事だ。
これ以上、美玲の機嫌を損ねないようにと、奈緒は早々に問う。
「それで、今日はどうしたの?」
「今週末、パーティーに行くことになったの」
「えっ、パーティー……??」
奈緒の驚いた反応に満足したのか、美玲は自慢げに声高らかに話し始めた。
「ただのパーティーじゃないのよ。大企業の社長や御曹司も来る、すごいパーティーなんだから」
華やかな美玲の周りには、彼女のような華やかな人達が集まる。美玲がパーティーに行くのは、必然的なことなのかもしれない。
「だからドレスが必要なんだけど、奈緒のドレスを貸してよ」
奈緒は首を傾げた。
「私の……?」
「ほら、あの藤色のドレス」
そう言われ、奈緒の脳裏に、一着のドレスが浮かんだ。
控えめに散りばめられた、星のように光り輝くスパンコールに、ふんわりとしたチュール素材で作られた、可愛らしいドレス。
それは、母の形見だった。
「ごめなさい。あれは、お母さんの形見で」
いくら美玲の頼みでも、貸すことは出来ない。
「だから? 私が貸してって言ってるのよ、貸しなさいよ」
「でも……」
「っ……いいから貸しなさいよ!!」
声を荒げる美玲に、奈緒は身をすくめた。
美玲の感高い声が頭に響く。疲れているせいか、鈍器で殴られたかのような衝撃だ。
「わ、分かった……貸すから」
「最初からそう言えばいいのよ」
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