麗しの年上社長は、私にだけ貪欲すぎる
ドレスを受け取った美玲の機嫌は良かった。
奈緒は、心が張り裂ける思いだった。
玄関のドアを開こうとしたとき、「あっ」と、美玲は奈緒に振り返った。
「お母さんが、今月分の支払い、忘れずに振り込んでだって」
早く家を出たくて、高校からアルバイトをして貯めたお金で、大学からは一人暮らしを始めた。奨学金はもらえたが、学業とアルバイトの両立は難しく、毎日一日を終えるので精一杯だった。大手である新田産業に就職したことで生活は安定したが、美玲の両親は、奈緒が新田産業のホテルで働くと知り、今まで育てた恩義だと言って、お金を要求するようになったのだ。
「うん……月末までには振り込むね」
「よろしく」
口元に笑みを浮かべ、美玲はそう言った。
ドアが閉まると、悲しみと苦しみが同時に奈緒の心を襲った。これをなんと例えたらいいのか、とにかく激しく胸が痛んだ。
(一体、いつまでこんな日が続くんだろう。私は死ぬまで、ずっとあの人たちの言いなりになるしかないのかな……)
奈緒は塞ぎ込むようにして座り込み、しばらくその場から動けなかった。
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