悪役令嬢らしく全てを奪われ、断罪されたはずなのになぜかヤンデレ従者に溺愛されてます
7
次の日、その次の日もアリシアは学園でエーメント殿下と楽しそうに会話をしていた。誰の目にも入る中庭で。最早彼女たちは自分たちの関係を隠すことすら止めたのだ。
学園は親の監視がない唯一の場所。誰もこんな不祥事、親には言えないだろう。言ったところで陛下に進言できることではない。学園で恋人を作って、卒業後は親の決めた相手と夫婦になる。これは貴族によくある恋人ごっこだ。誰もがそう楽観視していた。
ただ当事者からしたらたまったものではない。
相手がまだ下位貴族なら良かった。
ただの恋人ごっこだと安心できたから。でもアリシアは私の妹。彼女はいつでも婚約者(私)に成り代われるのだ。
「楽しそうですね。私も混ぜてくださいませんか?」
「お、姉様」
いつまでも逃げているわけにはいかない。
いつまでも遠ざけているわけにはいかない。
私はにっこり笑い、余裕の態度を見せて近づいたけど内心は怯えていた。
拒絶されたらどうしよう。殿下の機嫌を損ねたらどうしよう、と。
アリシアは気まずそうに私から視線を逸らした。
あの夜、私とした約束を彼女はちゃんと覚えているようだ。でもまだ殿下と別れていないのは約束を守る必要がなくなったから?
私から殿下を本気で奪う気になったの?
震えそうになる感情を殺す為に拳を握り締めた。
「よろしいですわよね、殿下。だってあなたの婚約者は私なのだから」
「‥…ああ」
承諾をする殿下にアリシアは傷ついた顔をする。そんな彼女を気遣うように殿下はアリシアの肩を抱き寄せた。
なによ、それ。
誰もが固唾を飲んで見守っていた。
「何を話していらしたの?」
「他愛もない世間話ですわ、お姉様」
「そう。その割には盛り上がっていたようだけど。私に聞かせられない話でもしていたの?」
「そんなはずありませんわ!」
「イリス、幾らお前が私の婚約者だからといって私を縛る権利はない。会話の内容を報告する義務もない」
エーメント殿下が私に向ける目はアリシアに向ける温かな眼差しとは真逆。
そんなに妹が気に入ったの。
白磁の肌に金色の髪と青い目。ルラーンの特徴が詰まった人形。見た目はそうでも私と同じオスファルトの血が半分入っているのに。
「そうですわ、殿下。私は殿下の婚約者です。私があなたの婚約者です。アリシアではありませんわ。アリシア、あなたはいつ殿下と別れる気?私との約束を反故にするの?」
「ご、誤解です」
アリシアは身を乗り出し、私の両手を包み込んだ。信じてくれと言わんばかりに彼女は強く主張する。
「お姉様との約束は守りました。これからは良き友人として殿下のお傍にお仕えしようと」
何それ。
「イリス、くだらない嫉妬はよせ。私とアリシアはただの友人だ」
「ただの友人は抱き合ったりはしませんわ。それに節度を保って接するものではありませんか?本当に男女の友情が成立するのなら」
「イリス、先ほども言った。私の婚約者だからと図に乗るなと。誰に口答えしている?」
「っ」
「殿下、いけませんわ。そのように威圧的に言っては、お姉様が可哀そうです」
可哀そう?
何それ。
「しかし、アリシア。こいつは以前、お前に暴力を振るったのだぞ」
「私が悪かったのです。殴られても仕方のないことをしてしまいました」
アリシアが庇えば庇う程、私の心証が悪くなっていく。逆にアリシアは姉に暴力を振るわれても許す優しい娘のような図式になっている。
「とんだ茶番ですわ」
「何だと?」
「気分が悪いので失礼します」
「お姉様、待ってください。話を聞いてください。私は本当に」
誰の目から見ても分かるような嘘をつかれるのは心底腹が立つ。だから私はアリシアの言葉には耳を傾けずその場を去った。
学園は親の監視がない唯一の場所。誰もこんな不祥事、親には言えないだろう。言ったところで陛下に進言できることではない。学園で恋人を作って、卒業後は親の決めた相手と夫婦になる。これは貴族によくある恋人ごっこだ。誰もがそう楽観視していた。
ただ当事者からしたらたまったものではない。
相手がまだ下位貴族なら良かった。
ただの恋人ごっこだと安心できたから。でもアリシアは私の妹。彼女はいつでも婚約者(私)に成り代われるのだ。
「楽しそうですね。私も混ぜてくださいませんか?」
「お、姉様」
いつまでも逃げているわけにはいかない。
いつまでも遠ざけているわけにはいかない。
私はにっこり笑い、余裕の態度を見せて近づいたけど内心は怯えていた。
拒絶されたらどうしよう。殿下の機嫌を損ねたらどうしよう、と。
アリシアは気まずそうに私から視線を逸らした。
あの夜、私とした約束を彼女はちゃんと覚えているようだ。でもまだ殿下と別れていないのは約束を守る必要がなくなったから?
私から殿下を本気で奪う気になったの?
震えそうになる感情を殺す為に拳を握り締めた。
「よろしいですわよね、殿下。だってあなたの婚約者は私なのだから」
「‥…ああ」
承諾をする殿下にアリシアは傷ついた顔をする。そんな彼女を気遣うように殿下はアリシアの肩を抱き寄せた。
なによ、それ。
誰もが固唾を飲んで見守っていた。
「何を話していらしたの?」
「他愛もない世間話ですわ、お姉様」
「そう。その割には盛り上がっていたようだけど。私に聞かせられない話でもしていたの?」
「そんなはずありませんわ!」
「イリス、幾らお前が私の婚約者だからといって私を縛る権利はない。会話の内容を報告する義務もない」
エーメント殿下が私に向ける目はアリシアに向ける温かな眼差しとは真逆。
そんなに妹が気に入ったの。
白磁の肌に金色の髪と青い目。ルラーンの特徴が詰まった人形。見た目はそうでも私と同じオスファルトの血が半分入っているのに。
「そうですわ、殿下。私は殿下の婚約者です。私があなたの婚約者です。アリシアではありませんわ。アリシア、あなたはいつ殿下と別れる気?私との約束を反故にするの?」
「ご、誤解です」
アリシアは身を乗り出し、私の両手を包み込んだ。信じてくれと言わんばかりに彼女は強く主張する。
「お姉様との約束は守りました。これからは良き友人として殿下のお傍にお仕えしようと」
何それ。
「イリス、くだらない嫉妬はよせ。私とアリシアはただの友人だ」
「ただの友人は抱き合ったりはしませんわ。それに節度を保って接するものではありませんか?本当に男女の友情が成立するのなら」
「イリス、先ほども言った。私の婚約者だからと図に乗るなと。誰に口答えしている?」
「っ」
「殿下、いけませんわ。そのように威圧的に言っては、お姉様が可哀そうです」
可哀そう?
何それ。
「しかし、アリシア。こいつは以前、お前に暴力を振るったのだぞ」
「私が悪かったのです。殴られても仕方のないことをしてしまいました」
アリシアが庇えば庇う程、私の心証が悪くなっていく。逆にアリシアは姉に暴力を振るわれても許す優しい娘のような図式になっている。
「とんだ茶番ですわ」
「何だと?」
「気分が悪いので失礼します」
「お姉様、待ってください。話を聞いてください。私は本当に」
誰の目から見ても分かるような嘘をつかれるのは心底腹が立つ。だから私はアリシアの言葉には耳を傾けずその場を去った。