その執着は、花をも酔わす 〜別れた御曹司に迫られて〜
『……結婚はしてないけど、お付き合いしてる人はいます』
海棠さんの顔を思い浮かべながら、彼の目を見る。
ほつれた髪をまた、耳にかける。
『結婚……も、考えています』
『……』
今度はどうやら信じてくれたようで、彼はため息をつきながら私を自由にしてくれた。
私はベッドから降りてさっと身だしなみを整え、カバンを手にする。
『送るよ』
彼の提案に、首を横に振る。
『自分で帰れますからっ』
急いで寝室を出ようとドアに向かう。
ドアノブに手をかけたところで、また肩を掴まれて振り向かされる。
と同時に、ドアに背中を押しつけられて目の前が暗くなる。

一瞬にして熱と吐息が強引に混ざり合わされて、全身が彼を求めてしまうのがわかる。

『——んっふ……ぁ』
応えたい衝動に流されそうになる。
『——やっ……』
小さく拒絶の声を漏らすと、彼は私の呼吸を解放する。
『付き合ってる人がいるって——』
『関係ない』
『え……』
『結婚してるわけじゃないんだろ? いや、結婚していても関係ないな』
陰になった彼の瞳が妖艶に光って、口角も不敵に上がる。

『君を見つけ出したら、今度こそ手に入れて離さないと決めていたんだ。相手がいるなら奪うまでだ』

『……勝手なこと、言わないで!』
私が七年前にどんな思いをしたか、あなたはわかってない。

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