その執着は、花をも酔わす 〜別れた御曹司に迫られて〜
「ユキちゃん!」
マスターがカウンターから出てきて私をぎゅっと抱きしめる。
「金曜はお騒がせしちゃってごめんなさい」
「もー! 何言ってるのよ! ユキちゃんは被害者なのよ! 身体、なんともない?」
私はコクっと頷く。
「それにしても、あの時あのお客さんがいて良かったわね」
彼のことを言っているのはすぐにわかる。
私はなんとなく「はい」とも「いいえ」とも言えない微妙な顔をしてしまう。
「あのお客さんが、残ってるチョコを警察に持って行くって言ってくれて、あの後すぐにうちにも警察が来たの。ユキちゃんのことも病院に連れて行ってくれたんでしょ? 行動が的確で素早いわね」
医者には診てもらえたけど、病院には行ってないんだよね。
なんて言えないけど。
「ユキちゃんのこと名前で呼んでたけど、どういう関係?」
質問されてつい、答えにためらってしまう。
「昔の……ちょっとした知り合いなの」
「ふーん……そっか」
さすが客商売をしているだけあって、マスターはそれ以上詮索しないでくれた。
「このあたりで似たような事件が何件かあったみたいだから、あの二人はそのうち捕まると思う。油断してたわ」
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