その執着は、花をも酔わす 〜別れた御曹司に迫られて〜
「何ですか?」
『今夜、食事でもどうかと思って』
「お断りします」
即座に電話を切る。
こういうとき、会話を続けて向こうのペースに飲まれたら終わり。

「随分だな」

突然頭上から声がして肩がビクッと上下する。
振り向いて見上げれば、当然想像通りの人物。
「どうして」
「君のことだ、自分が悪いわけでもないのに店に謝罪に来るだろうと思った。できるだけ早いタイミングで」
読まれてる……に、しても。
「私が来なかったら……来たとしても、もっと遅かったらどうしたんですか?」
「君は来るし、何時間でも待つつもりだった」
「……ヒマなの?」
呆れたように言ってしまう。
今の彼の立場がどういうものなのかは知らないけど、ヒマなはずがない。
「待った時間が長いほど、君は食事を断れなくなるだろ?」
私は待ち時間なんて関係なく、こうやって誰かに待たれたりすると情に流されてしまいがちな人間だ。
自分が嫌になる悪い癖。

「何が食べたい?」

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