その執着は、花をも酔わす 〜別れた御曹司に迫られて〜
◇
十八時三十分。
「ひさびさなんだから、もっと高級な店に連れて行きたかった」
大衆的な焼肉屋で七輪の向こうの彼が不満を漏らす。
「念押しで言っておきますけど、ここ、割り勘ですからね」
私はメニューを見ながら愛想無く言う。
彼に借りを作るのは避けたい。
「まあでもこういうのも懐かしくていいよな」
私の言葉を聞いているんだかいないんだか、笑顔で見つめられて反射的にドキッとしてしまう。
わざと高級ブランドのスーツに不釣り合いな焼肉屋を選んだのに、ジャケットを脱いで座っているだけで結局絵になってしまうのがずるい。
品格っていうのは、何気ないときほど滲み出てしまうものなんだ。
「……」
「少しは会話を楽しんでくれないか」
「……」
彼は「やれやれ」とため息をついた。
ひどい別れ方をしたのに会話を楽しめなんてどうかしてる。
やっぱり来るんじゃなかった。
「へえ、スーシブルーイングのビールがあるんだな。それでこの店なのか?」
「勝手に見た名刺の情報を当たり前のように話題に出さないでください」
「何がおすすめ?」
本当に自分勝手。
「わざわざうちみたいなマイナーメーカーのビールなんか飲まなくても、自社のビールを飲んだらいいんじゃないですか?」
十八時三十分。
「ひさびさなんだから、もっと高級な店に連れて行きたかった」
大衆的な焼肉屋で七輪の向こうの彼が不満を漏らす。
「念押しで言っておきますけど、ここ、割り勘ですからね」
私はメニューを見ながら愛想無く言う。
彼に借りを作るのは避けたい。
「まあでもこういうのも懐かしくていいよな」
私の言葉を聞いているんだかいないんだか、笑顔で見つめられて反射的にドキッとしてしまう。
わざと高級ブランドのスーツに不釣り合いな焼肉屋を選んだのに、ジャケットを脱いで座っているだけで結局絵になってしまうのがずるい。
品格っていうのは、何気ないときほど滲み出てしまうものなんだ。
「……」
「少しは会話を楽しんでくれないか」
「……」
彼は「やれやれ」とため息をついた。
ひどい別れ方をしたのに会話を楽しめなんてどうかしてる。
やっぱり来るんじゃなかった。
「へえ、スーシブルーイングのビールがあるんだな。それでこの店なのか?」
「勝手に見た名刺の情報を当たり前のように話題に出さないでください」
「何がおすすめ?」
本当に自分勝手。
「わざわざうちみたいなマイナーメーカーのビールなんか飲まなくても、自社のビールを飲んだらいいんじゃないですか?」