その執着は、花をも酔わす 〜別れた御曹司に迫られて〜
店内の至る所で『IKARIビール』と書かれたポスターや瓶、樽が目に留まる。
「あいにく君ほど愛社精神を持ってはいないんでね。それに、新進メーカーのクラフトビールの方が勉強になる」
彼の家は国内最大手の『碇ビール』などを経営する碇ホールディングスの創業家だ。
後継ぎの彼自身は最後に会った時は二十七歳で碇ビールの営業部長だったと思うけど、今はきっともっと上の立場になっているはず。
愛社精神が無いなんて言っているけど『勉強になる』はきっと本音で、彼は昔からこういうときも市場調査を欠かさなかった。ツワモノ家へ行ったのも、きっと市場調査の一環だ。
渋々おすすめのビールを教えて、渋々乾杯をする。
相手に不満があっても、渋々でも、焼肉にアルコールは相性最高で、つい口元が綻んでしまう。
「相変わらず、うまそうに飲むな」
笑顔で言われる〝相変わらず〟という言葉に腹が立つ。
「中身はいろいろと変わりましたよ。もうあの頃の私じゃないです」
世間知らずな学生だった私とは違う。
「へぇ、それは——」
ビールを口にした彼が私を見据える。
「知るのが楽しみだ」
妖艶に笑われ、少しだけゾクッとする。
今の私をあなたに見せる気なんてない。
「あいにく君ほど愛社精神を持ってはいないんでね。それに、新進メーカーのクラフトビールの方が勉強になる」
彼の家は国内最大手の『碇ビール』などを経営する碇ホールディングスの創業家だ。
後継ぎの彼自身は最後に会った時は二十七歳で碇ビールの営業部長だったと思うけど、今はきっともっと上の立場になっているはず。
愛社精神が無いなんて言っているけど『勉強になる』はきっと本音で、彼は昔からこういうときも市場調査を欠かさなかった。ツワモノ家へ行ったのも、きっと市場調査の一環だ。
渋々おすすめのビールを教えて、渋々乾杯をする。
相手に不満があっても、渋々でも、焼肉にアルコールは相性最高で、つい口元が綻んでしまう。
「相変わらず、うまそうに飲むな」
笑顔で言われる〝相変わらず〟という言葉に腹が立つ。
「中身はいろいろと変わりましたよ。もうあの頃の私じゃないです」
世間知らずな学生だった私とは違う。
「へぇ、それは——」
ビールを口にした彼が私を見据える。
「知るのが楽しみだ」
妖艶に笑われ、少しだけゾクッとする。
今の私をあなたに見せる気なんてない。