その執着は、花をも酔わす 〜別れた御曹司に迫られて〜
「ところで」
彼の口調がどことなく冷たく乾いたものになる。
「君に睡眠薬を盛った連中だが」
『あの二人はそのうち捕まると思う』ってマスターが言っていた。その話?
「今しがた、うちの者から捕まえたと連絡があった」
「え……」
「このまま警察に引き渡してもいいんだが、それでは俺の気が収まらない。他の誰でもない、君を傷つけたんだからな」
声のトーンがものすごく冷ややかだ。
「花音はどうしたい?」
「どうしたいって……?」
「たとえば、東京湾に沈めるとか」
「……」
あまりにも冷淡な言い方に、先ほどとは比べ物にならないくらいにゾクッとして思わず顔がひきつったのが自分でもわかる。
「冗談に決まってるだろ? そんな顔するなよ」
彼はイタズラっぽく笑っているようで、目は笑っていない。
本当に冗談なのかと疑ってしまう。
「普通に……警察に引き渡してくれたらそれでいいです。だいたい私を傷つけたって言うなら……」
「ん?」
〝一番海底に沈むべきなのはあなたなんじゃないの?〟って言いたいけど。
「何でもないです」

そう、昔から瞳に少し冷たい空気を孕んでいる人だった。

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