その執着は、花をも酔わす 〜別れた御曹司に迫られて〜
『なんか、マズいもの見ちゃったって気がするけど』
『……べつに、私が頼んだことじゃないですし』
『でも、ああいうのは良くないんじゃないか? 君、この店のオーナーの娘さんだろ? お父さんは知っているのか?』
彼の質問に、私は首を横に振る。
『困ってないし、お店にはメリットがあるので』
『困ってないようには見えなかったけど』
『いいんです、べつに。そのうち一回くらい食事に付き合って濁しておくので』
『あんまり男を舐めない方がいい』
冷めた顔で笑われたことに〝子どもだな〟と言われたようで無性に腹が立ってムッとしてしまう。
『それに、そんな理由でうちが取引できないっていうのも腹立たしいしな』
それを言われてしまうとバツが悪い。
『ビールって嫌いじゃないけど、どこのも変わらないでしょ? なら安い方がいいに決まってるじゃないですか』
私の発言に、彼はため息をつく。
『ビールが嫌いじゃないならその考えはもったいないな』
『でも』
『何時に終わる?』
『え?』
『バイト』

鞘元さんに言ったみたいに〝仕事の後も忙しいので〟って答えるはずだったのに。

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