その執着は、花をも酔わす 〜別れた御曹司に迫られて〜
彼は面食らった顔でしばらく呆然としていた。
『……ガキが調子乗ってんじゃねーよ』
そう言って彼が右手を振り上げるのが見えて、思わず肩をすくめて目を瞑った。
……けど、何も起こらなくて目を開ける。
『さすがにマズいんじゃないですか?』
碇さんが私たちの間に入って、鞘元さんの手首を掴んでいた。
『誰だよお前』
『碇ビールの碇です』
彼が淡々とした口調で言ったそのひと言で、鞘元さんは右手を下げて青ざめた顔で立ち去った。
そのときだって〝ライバル企業にマズいところを見られたから〟とか〝背の高い碇さんに迫力があったから〟くらいにしか思わない、おめでたい思考回路だった。

『ありがとうございます』
『気が強いな。なかなかいい啖呵だった』
彼が笑う。
『本当のことしか言ってないつもりです』
『じゃあ、うちは味で勝負できてるってことかな』
『……まあ、ロベリアよりはね』
素直じゃない私の言葉に碇さんが嬉しそうに笑うから、思わずキュンとしてしまった。

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