その執着は、花をも酔わす 〜別れた御曹司に迫られて〜
それからすぐに、うちの店は碇ビールに切り替えることになった。
実際、値段が高くても碇ビールの方がよく出ていたし、私が父に正直に話したから。
父は鞘元さんにとても怒っていて、『今度営業に来たら一発殴ってやる』なんて冗談めかして言っていたけど、そんな日は来なかった。

『すみません、ロベリアビールの新しい営業担当です。ご挨拶だけさせていただきたくて伺いました。すみません、引き継ぎもなく』
ひと月と経たないうちに、鞘元さんはなんの挨拶もなくロベリアを辞めてしまったから。

『挨拶も引き継ぎも無いなんて、本当に非常識な人ですよね』
私はバーのカウンターで口を尖らせる。
隣には碇さん。時々見せる冷笑という感じの笑みを浮かべる。
何も言わず、どこか含みのある表情にも見えた。
碇さんは、あれから何度か私を〝お酒の勉強〟に連れ出してくれた。

私はその時間をとても楽しみにするようになっていたけど、決まって一軒で解散だった。
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